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メタルギアソリッド×けいおん!

1 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 15:32:17.41 ID:wpCa8h470

             ,. -‐'" ̄ ̄ ̄`ー 、
           /            `ヽ、
          /  __        r‐─ 、 ヽ
          / /  `ヽ、    /    ',  ',
           i  i      `ヽ='"      }  i
         .{  l              l.  l
         .l  l              ヽ.  l__
         __l /      、 i j     _,.ァ'=//l
         lヘヽL======〉l L=='' ̄: : : l゙l ll/ .}
            マヽ「〈: : : : : : : 〉 ̄〈: : : : : : : :/ l lレ./
            マ '', ヽ: : : : : // l l. ヽ=='''"´ l l ∧
          マヘ   ̄ ̄   l l.       レ'′',     ___r─‐、
           ヽゝ    /ー、_l,.-ヘ     ム イ∧ ,r‐-': : : : : : : : :',
            ∧   ,',.======ヽ    ム /:|r─'': : : : : : : : : : : : ::}
          /l ∧  〈,,,..-------、 ',   / /: :i: : : : : : : : : : : : : : : : :l、
         /: : :l.  \ '' ニニニニ ヾ / /: : :',: : : :;r‐'" ̄ ̄ ̄ヽ: ::ム
         /: : : : :j   j \   冖   //: : : : l: : : i        l: : : l
.     /: : : : : ://  /l  ヽ、____ //: : : : : :∧: :∧         l: : : l
     <: : : : : : : :////ヽ.    ///: : : : : : : : ∧: :∧_,,.-──┘: :/
      >: : : : : //∧ /: : \_/://: : : : : : : : : ::_∨: : : : : : : : : : : : />

「このSSにはMGSシリーズのネタバレが多く含まれている!
 また、MGSの世界観の矛盾などあるかもしれないがその辺はゆるせ!
 SSはオナニーだ!俺のオナニーを見たい奴だけついてこい!!」


2 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 15:34:11.48 ID:wpCa8h470



「オタコン、今何といった?」
スネークは訝しげな目で相棒を見る。
「日本の桜が丘高校に潜入して生徒の護衛をして欲しいって言ったんだけど……」
白髪頭を抱えて彼は大きなため息をついた。
愛国者達の支配から世界を脱却させた英雄はノーマッド機内でオタコンとサニーと共に
高高度を飛行中だ。

「俺はもう戦える体じゃない。メリルかジョニーにでも依頼すればいいじゃないか」
「そうもいかないんだ。PMCの査察部門に彼女らが戻ったのは知ってるだろ?
世界中に溢れかえってるID登録制の銃の整備回収でてんやわんやさ」
「そもそも、そこいらにいる生徒の護衛をしろというのが良く分からん。
殺し屋にでも狙われてるのか?俺はボディーガードじゃない」
オタコンはやれやれと言う顔をしてノーマッド機内に取り付けてある大型モニターに目をやり
キーボードを小気味よく叩いた。

スーパーコンピューター「ガウディ」が映し出したのは可愛らしい女子高生の画像。
「おい……オタコン……まさかとは思っていたが……。そうだったのか……
クソッ、サニーが危ない!」
スネークが急いでサニーの元へ向かおうとするのをオタコンが静止する。
「落ち着いてよスネーク、この娘は護衛の対象
それにどちかといえば……その……僕、年上が好みなの知ってるだろ?」
「ああ……ごほん、そうだったな。悪い」



4 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 15:37:41.06 ID:wpCa8h470

「話を進めるよ?彼女の名前は平沢唯。年齢は17歳、身長156cm、体重50kg
血液型はO型。母親も父親も日本人で妹が1人居る。現在は高校生だ」
「何というか……普通の女の子という感じだな」
「彼女自身はね。性格はかなり変わってるらしんだけど」
「そろそろ教えてくれ。彼女を護衛する理由が聞きたい」
「これさ」

オタコン画面上にある違うフォルダをクリックする。
映し出されたのは米軍の海上輸送艦だ。
「アメリカ海軍キーストーン・ステート級輸送艦だ。
アウターヘイブンからある物をアメリカに運ぶ途中海上で何者かの強襲に会い積荷を奪われてしまった。
愛国者達の探査衛星が停止してることもあって襲撃者の正体は不明。
船員の話によるとかなり訓練された部隊だったって話だ。
SOPシステムに頼り切っていた大国ほど軍備が弱く
SOPを導入する事が出来なかった1世代前の軍備国が今じゃ脅威だ。
まさにトランプの大富豪で革命が起こった状態だよ」
「SOPシステム停止後の軍事的混乱を狙ったとは言え大胆な連中だな。
問題は積荷の中身か……」

オタコンはメガネを人差し指でくいと上げ、口を開いた。
「うん、その中身はこれ……「G・W識別コード」……」
「なんだって!?」
「知っての通り愛国者達のシステムは完全に崩壊したわけじゃない。
市民が生活する上で必要な他の3つのAIはサニーのお陰でまだ生きてる。
今まではジョン・ドゥが統括してたんだけど、今は国連加盟国全体で各AIを監視してるんだ。
まぁ、AIに外部からアクセス出来ない以上間接的に監視する事しか出来ないんだけどね。
今のところAIは今まで通り動いてる。
けど、G・Wの識別コードを使えば各AIはコード使用者の言いなりだ。
ジョン・ドゥが無くなった今権限を持つのは各AIの識別コードだからね」



6 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 15:41:37.31 ID:wpCa8h470

「軍事AIでないとは言え世界経済の利潤に関わる、密に1つの国家に渡れば戦争になりかねない。
ナオミのウィルスでG・Wは破壊されたんじゃないのか?」
「G・W自体は破壊されたよ。けどG・Wを認識させるコードだけはリキッドがヘイブンで切り離していたんだ。
物理的にも隔離された非核搭載型メタルギア「スプリガン」の中にね」
「またメタルギアか……ならすぐにでも襲撃者は愛国者の残骸を乗っ取れると?」
「それもそう簡単にはいかないんだ。
識別コードは最重要機密、リキッドはそのコードをリキッド以外が使う場合ある人物を鍵としないと使えないようにした。
そこで……」
「この娘が選ばれた……この娘である理由は?」
「超能力者なんだ」
「サイコマンティスのような?」
「いや、彼女は自覚していないよ。平沢唯の声には微量の精神的なヒーリング効果があるらしいんだ。
対象の人間の脳波の乱れ、感情の起伏を和らげるって話だ。
でもその効果は強烈なものでは無くて希少的な意味で選ばれたんだと思う。
声紋、網膜、指紋はコピーできてもその効果までは真似出来ないからね」
「なるほどそれを聞いて安心した。また心を読まれちゃたまらないからな」
「彼女が鍵だと知っていたのはアウターヘイブンに居たごく限られた人間だけだった。
しかもリキッドは最後に愛国者のシステムを完全に消滅させようとしている。
結局AI全てが壊れればコードは必要なくなる。彼女はあくまで保険だったんだ」
「けれど、状況が変わった……G・Wとジョン・ドゥだけが破壊されリキッドもいなくなった……」



7 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 15:44:49.03 ID:wpCa8h470

「CIA、それどころか世界中の軍隊は愛国者を失った今、満足に動けない状態だ。
情報開示も行ってないから各国がどれぐらい情報を掴んでるのかも不透明だし、すぐにでも動いた方がいい。
この情報は大佐からのリークだ。信頼の置けるソースさ」
「大佐が?……よし……分かった。あまり気乗りしないがな」
「ごめんよ、スネーク。場所は日本だ。銃を持った兵隊がウロウロする訳にもいかない。
それにもし襲撃があった場合コードを奪った敵の事も分かるかもしれないしね」
「襲われる前提の話は止してくれ。それに場所はあの日本だ、相手も派手な事は出来ない。
大佐に伝えといてくれ、早いところそのスプリガンとやらを見つけてくれとな」

スネークがふと目をやるとサニーが耳にイヤホンをつけ鼻歌を歌いながら降りてきた。
「サニーどうしたんだい?ごきげんだね」
サニーはオタコンの方を向きにこっと笑った。

「ハル兄さんの……資料に入っていた曲……す、すごくいい曲ね」
「大佐の送ってきた資料の事かい?」

オタコンがそう聞くとサニーはこくんと頷いた。

「ふわふわタイムって言う曲なの」



8 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 15:46:46.21 ID:wpCa8h470



愛国者達の実質的な消滅は結果として力で1つにまとめていた世界を分散させる結果となっていた

愛国者の残した現代社会を維持する3つのシステムの利権を巡り国連の協議は激しさを増し

SOPシステムに頼りきっていた各国の軍隊は軍部改変を余儀なくされ

PMCに押さえつけられていた小国達は革命を高らかに叫んだ


規律を無くし世界は混乱の只中にいた



10 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 15:50:07.48 ID:wpCa8h470



桜が丘高校の一室。
放課後ティータイムのメンバーと生徒会役員の和は机を寄せ合い色とりどりの弁当を並べ
いつもの様に騒がしくお昼ごはんを食べていた。

「おいしってるか澪!今日次の時間新しい先生が臨時で来るらしいぜ、楽しみだな~!」
律は立ったまま机に手をついて小さくジャンプしながら言う。
「人がご飯食べてる時に騒ぐなよ、みっともない」
小さな子供を叱るように澪が困った顔をしながら言った。
「そうだよりっちゃん!お弁当はお上品に食べなきゃ!」
唯は背筋を伸ばしここぞとばかりに行儀よくインゲン豆を口に運んでいる。
「何か唯に言われると無性に腹が立つな……という訳で……玉子焼きいっただきぃ!」
「なんの!」
唯の箸が玉子焼きを狙う律の指を食い止める。

「唯も行儀悪いわよ、まったく……この子全然かわんないんだから」
唯の幼馴染である和はガックリうな垂れた
「わぁ~すごいすごい」
ムギは目をビー玉みたいに輝かせながら玉子焼きを巡る攻防に目を輝かせている。
「でもこんな時期に変な話だな」
「そうね、教師に欠員が出たわけでも無さそうだし」
澪と和は戦不毛な戦いを繰り広げている唯と律を無視して話を進めた。



11 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 15:52:17.43 ID:wpCa8h470

「何か外国語の先生って言ってたな。6ヶ国語をはなすらしいぞ」
「へぇ~!すごいね!ツォンガ語話せるかな?ツォンガ語!」
「唯……それどこの言葉よ」
「南アフリカだよ~昨日テレビでやってたんだ!」
「多分……知らないと思う……ねぇ、澪」
「う、うん……それにしても凄いな……5ヵ国語か。尊敬しちょうよ」
そんな澪をニヤニヤしながら律が覗き込む。
「なんだぁ~澪~6ヵ国語話せる男と国際カップルかぁ~?」
「まだ男かどうかも決まってないだろ!」
澪のゲンコツが律の頭にタンコブを作った。


午後のチャイムが鳴りクラスの生徒達は湧き出る好奇心を抑えられないのかいつもよりもざわついていた。
どうやら午前中はその先生は不在だったようで誰も姿を見ていなかったのである。
軽音部顧問であり担任のサワコ先生は「楽しみにしていなさい」と、だけ言い
どんな人物が来るのか生徒に教えずにいた。

廊下に足音が響き教室の前でぴたりと止まる。
それと同時に教室内のざわつきもぴたりと止まった。




13 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 15:54:13.09 ID:wpCa8h470

教室のドアを開けゆっくりと入ってきたのは初老の紳士だった。
髪は白く、目つきは鋭い。その年齢にしてはがっしりとした体格にどこか違和感を覚える。

「ジョン=コジマだ。各国を転々としてきた為、日本の学校の事は良く分からないが宜しく頼む」


ジョン=コジマ最初の授業はクラスの自己紹介とジョン自身の自己紹介だった。

「平沢唯です。好きなことは寝ることと食べる事とごろごろする事です。えっと~後は
そう!ギー太!私の友達なんです!」
「ギー太?犬か何かか?」
ジョンは窓際後方の席に座る最後の自己紹介者に向かって問いかけた。
「ちょっとまってね、うんしょ……うんしょ」
唯は自分の席の後ろにあるギターケースを空け中身を大事そうに取り出した。
「ギー太だよ!」
満面の笑みの唯を見てジョンは小さく微笑んだ。
「俺は楽器のことは良く分からない。けれどそのギターが君にとって大切なものだという事は良く分かる。
大事に使い、愛情を注いでやればそいつはきっと君の問いかけに応えてくれる。
君がつらい時、悲しい時、困難に向かい合った時、そのギターはっきと君の問いかけに応えてくれる筈だ」
「えへへぇ~」
唯はギー太と自分が褒められたのが嬉しいのかフニャフニャ笑っている。



15 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 15:56:47.40 ID:wpCa8h470

「俺にもギー太のような存在がいる、こいつだ」
ジョンはどこからとも無くダンボールを取り出した。
「えっ?」
その部屋にいる生徒の目が点になる。
唯とムギだけは尊敬のまなざしのままであったが。

「このダンボールは幾度と無く俺の命を救ってくれた、いわば……相棒みたいな奴だ。
ダンボールに注ぐ愛情、その愛情が大きければ大きいほどコイツは俺を正しい道へ導いてくれる。
危険な地域に足を運ぶ事もあったがこいつのお陰で敵に見つからずその場をやり過ごす事が出来た」
おもむろにジョンはダンボールを組み立て始める。
「ダンボール選びのコツは大きさに材質、のぞき穴の大きさに、何が入っていたかも重要な要素になってくる。
大きさは屈めば入れるぐらいの大きさが望ましい。
材質は紙とプラスチックがあるんだが個人的には紙のほうが好きだ。
プラスチックには無いぬくもりを感じる事が出来るが、これは個人の好みだから強要はしたくない。
スタイリッシュさを選ぶならプラスチック製を選ぶといいだろう。
フルートは個人的にBフルートが好みだがWフルートも趣があって良い。
中芯はV18ぐらいが良いだろう。
薬品で補強してある強化芯の安心感はICCA(国際ダンボール協会)も認めている。
けれど何より重要な事は……」

ジョンはそう言いながらダンボールの中にすっぽりと隠れてしまった。
「一体感だ!」

ジョン最初の授業は生徒の話とダンボールの話で幕を閉じた。


17 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 16:00:04.85 ID:wpCa8h470



『スネーク、確かに僕は最初ぐらいは好きな事の話をするよう言ったけどダンボールは無いよ』
「そうか?対象の平沢唯はずいぶんと熱心に話を聞いてくれていたようだったが……」

誰もいない学校の備品室でメタルギアMk2に話かけているのはジョン=コジマことソリッドスネークだった。
ガウディーとの分散コンピューティングを解しMk2を遠隔操作しているのは勿論オタコンである。
『君の任務は彼女の護衛だ。生徒に不信感を持たせちゃ任務に支障が出る。まじめにやってくれ』
ぴょこぴょこ飛ぶMk2は前機体よりセルプロセッサのバージョンアップによるバランサー性能が上がっており
いつもより動きがせわしなかった。
「真面目にやってるんだがな……」
『とにかく、できるだけ彼女の近くにいてやってくれ』
「……了解だ」

『それと、襲撃犯と思われる組織が分かったよ』
「どんな組織だ?」
Mk2は自信に内臓されている小型モニターを展開させ画像を表示する。
『リキッドがいなくなった後、各PMC会社からあふれ出た兵士を取り込んでる組織があるみたいなんだ。
金の為じゃなく思想で動くタイプのね。
いつから存在してるのか良く分からないんだけどこの混乱に乗じて急速に人員と武器をかき集めてる。
ID銃や兵器のロックを外す独自の技術を持ってるみたいだ。
各国の軍事力の整備が整い次第真っ先に標的にされるだろう、正直相手にしたくないタイプの敵だよ』
「相手にしたい敵なんていない。で、その組織の名は?」

『……国境なき軍隊だ』



18 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 16:02:02.27 ID:wpCa8h470

「国境なき軍隊?確かアウターヘブンの前身組織がその名前だった筈だ」
『ああ、ビッグボスに関係が無いとは思えない。
現にアウターヘブン設立時にビッグボスが掲げた理念や彼自体を神格化し崇拝しているテロ組織や小国があるぐらいだ』
「何にせよ気をつける……」

スネークはゆっくり物置部屋であるこの部屋を見回した。
「しかし……ここにいるとどうも緊張感にかける」
『日本の学校、しかも女子高だからね。僕らには縁の無い世界さ』
Mk2は小さな首をやれやれと振った。
「オタコン。Mk2で……覗くなよ?」
『スネークこそ、生徒を口説かないでよ?』
Mk2はステルス迷彩で姿を隠すと校舎の監視任務に戻った。

スネークもそれを見届けると音楽室に向かい歩みを進めた。



20 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 16:04:37.06 ID:wpCa8h470

放課後、軽音部部室である音楽室で唯と紬はダンボールを組み立てていた。
「大切なのは愛情だよっ!ムギちゃん」
「そうね、どんな素敵なダンボールが組みあがるのかしら~」
さながら小学生の工作が如きその姿を不可思議な眼差しで見つめるのは唯達より1年後輩の中野梓だ。
「何やってんですか?先輩」
「あずにゃん、ダンボールはね一体感が重要なんだよ!これで敵の目を欺くんだよ!」
「は、はぁ……というより敵って何ですか……」

梓はお菓子と紅茶が並べられた机にため息をつきながら向き直った。
「今日来た特別講師の先生に影響されちゃったみたいなんだ」
シフォンケーキを口に運びながら澪が言う。
「って、どんな先生ですか!ダンボールと外国語全然関係ないでしょ!」
「そうだな……一言で言うのは難しいんだけど……」

一方律は軽音部の隅にある物置の方をじっっと見ている。
「どうしたんだよ律、ボーっと物置の方を見て」
「いや……なんつーか違和感を感じるんだよ。どこか物置がいつもと違うような」
「ヘ……変なこと言うなよ……まっ、まさか幽霊!?」
澪は顔を真っ青にしてカタカタ震えだす。
「あ、私も確かに何か変な感じがするなって思ってたんです。どうしてだろう……」
梓も首を傾げる。



21 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 16:06:46.69 ID:wpCa8h470

「あ!分かった!」、
「ヒィッ!!」
いきなり大声を上げた律に澪は驚きの声を上げる。

「あのダンボールだよダンボール。昨日までは無かっただろ」
「なるほど、昨日まではこのダンボールありませんでしたね」
梓も胸のつかえが取れて満足したようだった。

「おい唯、このダンボールちゃんと片付けとけよな」
「え~りっちゃん、このダンボール私のじゃないよ」
「じゃあムギお前のか?」
ムギも首を横に振る。
「となると……さわちゃんか……。まったく、これ以上荷物増やすなよな。邪魔だから奥にしまっとこうぜ」
ブツブツいいながら律はダンボールを持ち上げた。
箱はいとも簡単にもちあがり
律と部員たちが見たものは体育座りをしたジョン・コジマだった。
彼の頭にエクステンションマークがつく。

「な……何やってんの?」
律が顔に縦線を引いてジョンに恐る恐る聞く。
唯以外の部員たちもやや引き気味だ。


22 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 16:08:41.80 ID:wpCa8h470

「紅茶の香りに誘われてやって来た。
良い香りがする、この香りは……珍しいな。カンヤム・カンニャムか」
「えっ……あっはい。家から持ってきたんです」
ムギは組み立てていたダンボールの傍を離れいそいそと立ち上がりジョンのカップを用意する。
「……この人が……特別講師のジョン=コジマ先生だ」
「変わってますね……どこかの国の風習でしょうか……」
澪は件のジョンを梓に紹介した。

ジョンは何事も無かったかのように席に着く。
ムギは丁寧に紅茶をカップに注ぐとジョンの前に差し出した。
「ありがとう。香りは1級品だな……味の方は……ダージリンに似ているが香りに深みがある。
ネパール特有のこの味は他の紅茶では出せない。それに入れ方も素晴らしかった。良いセンスだ」

紅茶を飲む老紳士のその姿はそれだけで絵になった。
先ほどの登場が嘘のようである。
「えっと、あの……それで先生、軽音部に何かご用事ですか?」
澪が恐る恐るジョンに聞く。

「音楽は素晴らしい。音が持つ様々な性質を組織し、利用し、感情や思想を誰も傷つけることなく訴える事が出来る。
国、宗教、指導者、文化、歴史……遺伝子が伝える事の出来ない想いを後世に伝える事の出来る不変の文化形態だ」
「は……はぁ」

「1曲歌ってくれないか?それを頼みに来たんだ。良い歌が聞けると聞いたんでな」
「えっ?あ、はい……私はいいですけど」
澪は他の部員に目をやる。皆も演奏する事に異論は無いようだ。

各々が指定のポジションに着き楽器を手に取る。
律がドラムのスティックを叩きリズムを取った。
「ワン・ツー・スリー」



24 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 16:12:03.31 ID:wpCa8h470

曲が始まるとオタコンから通信が入る。ジョンは彼女らに気づかれないように小声で通信を開始した。

『演奏が始まったようだね、スネーク。順調に不審者としての地位を確立してるよ』
「平沢唯の声のサンプルはこれで取れる筈だ。大佐の資料だけじゃ不満だったのか?」
『各種機材やフィルターをかけるからね、生のデータが欲しかったし』

前奏が終わり唯がギターを鳴らしながら歌いだす。
『Mk2で歌ってる彼女達を科学的にモニタリングしてるんだけど、平沢唯はやはりESP能力者だ。
彼女の声をスペクトル解析その他諸々の機材を通して分析してるんだけど
彼女は自分の脳波を周りの人間に同調させる性質があるようだ。
言わば自分の感情みたいなもの周りに振りまくって事だね。
後、面白い事も分かった。歌を歌う時と普段じゃ声の性質が少し変異するみたいだ。
歌の方は聴くものの脳波を活性化させる働きがあるようだ』
「彼女は少々変わり者だが、皆に愛されているようだな。彼女の能力が理由か?」
『うん、ただそれだけが理由じゃないだろうけどね。彼女は幸運にも明るい性格だ。
諸所の事情が絡みあってこの環境や明るい性格があるんだと思う。
少しルーズな所があるらしいんだけど、見返りを求めない無垢な優しさを彼女は元々持ってる。
正直……彼女には僕たちの世界にあまり首を突っ込んで欲しくない』

「……そうだな……彼女たちには彼女たちの日常がある。
今回の事でこの日常を失わせたくは無い。それに……」
『それに?』

「いい歌だ」
『……そうだね。野暮な話は止めて今はこの歌を聞くとしよう』


26 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 16:15:42.56 ID:wpCa8h470



桜が丘高校、平沢家の周りには日本政府の対テロ特殊法案の下
私服警官が多数張り込み密に防御網を布陣させていた。
スネークの作戦行動は日本政府も承知であり、情報提供を両者間で行い共同作戦を展開していた。

『おねーちゃん夜ご飯できたよ』
『おおっ~今日はハンバ~グだねぇ。ういは良いお嫁さんになるよぉ』
『えへへ~、言いすぎだよお姉ちゃん』

平沢家には多数の監視カメラと盗聴器がし掛けられ護衛班による監視が行われていた。
「年頃の女性の私生活を覗き見るというのは、あまり良い気分じゃないな」
平沢家の近くに止めた偽装バンの中でスネークは呟いた。
手元には英語の授業のカリキュラムが握られている。
『これも彼女のためさ』
偽装バン内にあるモニター越しにオタコンがスネークを諭した。
『テロリストがコードを奪ってもう7日経つ。コードを解き放つ鍵、平沢唯を放置すれば放置するほど
相手にとって状況が不利になる。メタルギアが見つかってもアウト、彼女を捕獲しそこねてもアウトだからね。
スネーク、夜は特に警備が厳重になる、今の内に車の中で休んでおいてくれ。授業内容もばっちりのようだしね』
「先生というのは大変だな。テロリスト相手の方が気が楽だ」
『意外と向いてるのかもね』
「冗談はよしてくれ……」

スネークはゆっくりと立ち上がり備え付けてある簡易ベットに寝転がると
すぐに深い眠りへと落ちていった。




28 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 16:18:23.43 ID:wpCa8h470

翌日、スネークは各クラスの授業に四苦八苦しながらも生徒に英語を教えるというサブミッションを続行していた。
昼休み終了のチャイムが鳴る。5限目は平沢唯のいるクラスだ。
「ジョン先生は日本人なの?」
授業が始まる5分前、律は興味津々といった様子でスネークに問いかけた。
湧き出る好奇心を抑えきれない様子である。

「イギリス人と日本人のハーフだ。小さい頃から各地を転々としてきた。
母国と呼べる国は無いかも知れない。アラスカでの生活が少し長かったな」
「ね~ね~アラスカって鮭がおいしんでしょ?
いいなぁ~私も一度でいいからお腹いっぱいイクラご飯食べてみたいよぉ」
唯もいつの間にかやって来ておりじゅるりとよだれを垂らした。
彼女には人懐っこい子犬のような印象を受ける。

「鮭だけじゃないさ。タラバガニや甘エビなんかの魚介類が有名だ。
トナカイのソーセージなんかもある。
ジュノー産の黒ビールを片手に見たアラスカ山脈の夕日は今でも忘れない」
「いいなぁ~。ね!先生、いつか私もそこに行ってみたい!」
唯が目を輝かせて言う。
純粋な目だ。
汚れを知らない無垢な瞳に、スネークは目をそらしてしまいそうになる。

「行けるさ。望めば何だって叶う」
「うん!わかったよジョン先生!」

会話を断ち切るかのように授業開始のチャイムが鳴った。
生徒は急いで席につきスネークはオタコンから渡された教材を片手に慣れない教壇の前に立った。



29 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 16:21:07.29 ID:wpCa8h470

『ラビット配置につきました』
「了解、作戦開始時間までその場で待機」
『了解』
小波輸送と書かれた偽装大型トラックの中には通信用のコンピューターと
強化外骨格に身を包んだ兵士達が小銃を構え乗り合わせた司令官の指示を待っていた。
その司令官は迷彩服を羽織って通信用のモニターを見ながらその時を待つ。

「国境無き軍隊」……彼らはそう呼ばれていた。

トラックの側壁に備え付けられてあるモニターには画質の荒い桜が丘高校の1室が写っていた。
「もう少し分かるように写せないのか?」
司令官が画面を食い入るように見つめる。

「高校の周辺には私服警官と思われる人物が多数配備されています。
これ以上近付くのは……フィルターをかけてみます」
通信兵はキーボードをカタカタと鳴らしエンターキーを押した。
映し出された画像から荒さが幾分か消える。
窓際には平沢唯の姿が見て取れた。
「ターゲット確認しました……あの……司令、どうなさいました?」
司令官は平沢唯とは別の、教壇の方を見ていた。
「増員していて正解だった……これは……キャンベルの入れ知恵か……」
ブツブツ何か呟いている司令官を通信兵は怪訝な顔で見つめていた。
「マイクを貸せ」
言われるがまま通信兵は通信マイクを司令官に渡した。
司令官はマイクを受け取り小さく深呼吸して音声発信のボタンを押した。


「今から戦う相手は生きる伝説だ。死ぬ気でかかれ」




30 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 16:23:49.04 ID:wpCa8h470

授業が始まってから20分過ぎた頃、チョークを持つスネークの指がぴたりと止まった。
首筋が粟立つこの感触をスネークは知っている。

「全員……机の下に……もぐるんだ……」
黒板に向かったままのスネークがそう促す。
生徒はいきなり何を言うのかと言わんばかりに首をかしげている。
「早く……しろ」
押し迫った迫力に生徒たちは困惑しながらも机の下に身を潜めた。
スネークはクラスメイトに背を向けたまま動かない。

と、同時にスネークの耳に通信が入る。
『スネーク!!ステルス迷彩だ!!』
刹那、教室の窓ガラスが砕け散り金切り声にも似た爆音と閃光が教室を包んだ。

ガラスを踏み砕く音、机の上を誰かが走ってゆく音、まぶたの裏に焼きつく白い閃光。
閃光弾は見事に教室の真ん中で炸裂した。

生徒たちは机の下でうずくまった。
直後である。
「ぐぇあ!」
空中にいきなり外骨格を身に纏った兵士が現れ生徒の机の上に落ちてきた。
何人かの生徒達が恐る恐るスネークの方を見る。他の生徒は目を瞑り耳を塞いでガタガタと震えた。


31 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 16:26:11.98 ID:wpCa8h470

スネークは目に見えない何かと戦っていた。
円舞のように体を翻し何も無い空間に向かって掌底を打ち込む。
直後鈍い音がしてやはり強化外骨格を纏った兵士が壁に打ち付けられずるりと床に這いつくばる。
咄嗟にスネークは胸から拳銃を取り出しスプリンクラーを狙い撃った。
傘のように広がる消化用水がステルス迷彩に身を包んだ兵士達を映し出す。
唯の席の近くに1人、教壇の近くに1人、そしてナイフを振りかざし生徒の机の上からジャンプしてくる者2人だ。

ジャンプしてくる者1人に拳銃を2発叩き込む。
弾丸は強化外骨格の間接部分を打ち抜いた。
そのまま状態を前傾姿勢に移行させ飛び掛ってくるもう1人に向かいタックルを浴びせた。
その勢いで手を絡め取ると敵は手品のように回転した後、教壇横にいた仲間の方に投げ飛ばされた。
勢いのついた仲間を受け止め切れず、2人もろとも床と柱に頭をぶつけ意識を飛ばす。
スネークはそのまま机を踏み台にしながら走る。
唯の近くにいた兵士はスネークに向かって小銃を向けるが、スネークが撃つGSRの弾丸の方が正確かつ迅速であった。
小銃を弾丸で弾かれナイフを咄嗟に取り出そうとした所で敵兵の意識は途絶えた。

「頭を低くして非常階段から校舎の外に逃げろ!」
スネークがここにきて初めて叫んだ。
備え付けてある赤い防犯ベルの非常ボタンを押しけたたましいサイレン音の中、唯の無事を確認する。

唯は机の下で小さく震えていた。



32 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 16:29:35.23 ID:wpCa8h470

生徒たちはよたよたと立ち上がり言われたとおり非常階段へ向かう。
ある者は泣き、またある者は腰を抜かしたまま動けずにいた。
ここにきて張り込んでいた私服警官が教室に到着する。

「後の生徒達のことは頼む、こっちは平沢唯の保護が最優先だ」

スネークが唯に近付く。
「大丈夫か?」
「あばばばばば、こわいよぉ~」
「ここから脱出するぞ」
「……う、うん。でも腰がぬけて……うっ、うわぁああ」
スネークは唯を小脇に抱きかかえると教室から飛び出した。
服の下に着込んだ筋力強化スーツがあるとは言え老体にコレは応えた。

「くっ!重い」
「わわわ、私太らない体質だよぉ~」

校舎出口の中程に来た頃だった。
「あ!ちょっとまって!」
急にジタバタする唯。
「どうした!?」
「ギー太!ギー太が!」
「諦めろ!今はそれどころじゃない!」
「でも!でも!」




34 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 16:31:06.87 ID:wpCa8h470

唯は潤んだ訴えるような目でスネークを見つめる
その目は正に友人を置き去りにでもしたような表情だ。

ギー太!私の友達なんです!

彼女が自己紹介の時に言った言葉と満面の笑みを思い出す。
「クソッ!」
スネークはUターンして来た道を戻った。
「あ、ありがと~」

戻ってみると教室は空っぽだった。避難は迅速かつ無事済んだようだ。
スネークに投げ飛ばされノビた兵は手錠で柱に仲良く繋がれている。
恐らく駆けつけた私服警官がしてくれたのだろう。
「ギー太!」
唯はスネークの腕からするりと抜けるとギターケースに駆け寄りほお擦りをした。
「ごめんねぇ~ギー太。怖かったでしょ~」
その時、窓の外にスネークは違和感を覚えた。
「よけろ!唯!!」
「へ?」

ギターを持つ唯の体に銀色のマニピュレーターが巻きついた。
牛の鳴き声にも似た咆哮の後唯は窓の外に吸い込まれる。

スネークが窓から下を見降ろすとステルス迷彩を解いた二足歩行型AI兵器がスネークを
見上げていた。

「月光だと!」



35 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 16:33:43.02 ID:wpCa8h470

「ほわぁああああああ」
唯はわけも分からず月光のマニュピュレーターのなかでバタバタ暴れている。

律とムギ、澪は他の生徒達と共に門の外まで逃げてきていた。
「はぁっはぁ……澪……大丈夫か……」
息も絶え絶え律は隣にいた澪に問いかけた。
「お父さん……ぐすっ、お母さん……えぐっ」
澪は恐怖のあまり大粒の涙を流しながら両親の名前を呼び続けている。
「り、りっちゃん!アレ!」

紬が校舎の方を指差す。
そこには巨大な二本足のAI兵器とジタバタもがいている唯の姿があった。
「唯っ!!」
律が叫ぶと同時に、月光はその巨体からは想像できない様な身軽さで校舎の外に移動していった。



36 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 16:35:25.29 ID:wpCa8h470

窓からその様子を見ていたスネークだったが咄嗟にその場から教室奥へとジャンプした。
瞬間スネークが顔を出していた付近の窓枠がえぐれ轟音を立てる。
有蹄類を模したES細胞の足がそこにはあった。
校舎の壁面に別の月光が張り付き、強烈な蹴りを繰り出したのだ。

『奴ら……こんなものまで配備してたのか!』
オタコンが通信機の向こうで叫んだ。
「ごほっ、げほっ!……唯、唯は!?」
『追跡用サイファーで後を追ってる、月光と敵部隊が学園内から撤退を始めてるみたいだ!
ステルス迷彩を多用してるから正確な数は分からないけど実働部隊は少なくても2個小隊!
逃走支援の部隊がいるなら数はもっと増える!』
「最大敵戦力総定数を遥かに超えている!敵の狙いがわからない!」

スネークは窓から1階に飛び降りる。
校舎と平沢家の周辺には追跡用のバイクが数台用意されていた。
『これは制圧戦じゃない。この場合、敵にとってもっとも難しいのは撤退だ。
コレだけの部隊を国外に逃がす方法なんて思いつかないよ!
どう考えても不可能だ!海上航空封鎖の方が早い!』

スネークは一番近いバイクのある校門に向かって走り出す。
「オタコン!内閣府と防衛省に伝えろ!敵はココで戦争を始める気だ!」



37 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 16:37:31.29 ID:wpCa8h470

敵は人質を取り立てこもる事を完全に放棄し予想を上回る兵力でで平沢唯のみに兵力を傾けてきた。
これはスネークと日本政府の完全な誤算だった。
対抗策が練られている要人誘拐は兵力を消費し尚且つ要人を外に逃がさなければならない。
しかし、部隊が大きい分小回りが利かず、島国である日本国内での撤退戦は絶望的であり
守りの薄い所を責め人質とって立て篭もった方が効率が良い。
そして立てこもり交渉するという事はそれだけスネークにとっては時間とチャンスがあるという事だった。

アウターヘブン、ザンジバーランドを単独潜入し陥落させた男にとって立て篭もりという状況はむしろ好条件であった。
しかし敵は兵力の要る撤退の出来ない不利な状況を最初から選んでいた。
スネークがいたから立て篭もりから強行突破にシフトしたのではない。

敵の目的は今だ不透明だった。



38 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 16:39:36.70 ID:wpCa8h470

校門のところまで来るとスネークのもとに律が駆け寄ってきた。
「唯が!唯がぁ……うっく」
今までこらえていたものが一気にあふれ大粒の涙となって彼女の頬をぬらした。
スネークは律の肩にその大きな手を乗せた。
気丈な彼女の肩が小さく震えている。

「俺は俺が出来る事をする、だからお前は……今お前が出来ることをするんだ。
大切な時、感情に訴えかければ人はそれに飲み込まれる」
「じゃあ……えっぐ、私はどうすれば……えっぐ」
「今は友達の傍にいてやれ。胸を貸してやれ。それが終わったら感情に身を任せろ。
その時は俺がそれを受け止めてやる。けど今はその時じゃない」

そう言うと校門脇に止めてあるバイクにまたがりエンジンをふかす。
「絶対!唯を助けてやってくれ!私……何でもするから!!何でも言う事聞くからっ!!」
律が叫ぶ。顔は涙でくしゃくしゃだった。

「それじゃあ……そうだな、また歌を聞かせてくれ。いい歌だった」
ギアをかませ爆音と共にバイクは一瞬で遠くに見えなくなった。




41 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 16:43:54.05 ID:wpCa8h470



桜が丘高校から少し離れた港に待機していたパトカーと装甲車、それに対テロ特殊部隊が向かっていた。
桜が丘高校襲撃が小波運輸のトラックから降りてきた兵によって行われたという情報が入ったのだ。
港には小波運輸が保有する大型貨物船が現在入港しており
ここ数日頻繁に出入りを行っていることが分かったのである。

プロテクターを身に着けた機動隊が地上で貨物船を見上げながら突入の合図を待つ。
それに呼応するかのように対テロ特殊部隊がヘリからロープを下ろし船尾に降下した。
次の瞬間。

巨大な咆哮とも機械音とも取れる地鳴りのような鳴き声が貨物船の中からこだました。
船のどてっぱらが轟音と共に破裂し紅蓮の炎が噴出す。

『オハヨウゴザイマス、今日ノ天気ハ晴レ。絶好ノ洗濯ビヨリトナルデショウ』
機械の合成音が辺りに響く。
そしてゆっくりとサナギから甲虫が脱皮するかのように六脚の蟹のような鉄の塊が姿を現す。
鋼鉄に覆われた蟹の化け物は先の合成音とは違う震え上がるような咆哮を上げ
船から装甲車やパトカーの止まっている方へジャンプする。
着地と同時にコンクリートがえぐれ地面にひびが入った。
『チャクチ成功、ショックアブソーバ二問題ナシ』
パトカーは玩具のように舞い装甲車は火花を散らしながら仰向けになって道路を滑走後、波止場の倉庫に突っ込んだ。

ガソリンの代わりに使われる穀物由来のアルコール燃料の臭いとゴムの焼ける臭いが当たりに充満する。
黒煙と白煙が混じるその中でアウターヘイブンの中で静かに眠っていた番人はその産声をあげた。

『行動レプタイルモジュール機動確認問題ナシ。付近ノ皆様、避難シテクダサイ』



42 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 16:46:59.69 ID:wpCa8h470

猛スピードで月光を追うスネークの元に通信が入る。
『スネーク!スプリガンが現れた!大佐の資料の資料と一致してる』
「何だって!場所は!?」
『南方にある港だ!装甲車と警察の静止を振り切って北上してる!奴らここで愛国者のAIにアクセスする気だ!』
「馬鹿な!この場所でアクセスした所で社会維持のシステムをいじくれるだけだ、すぐに自衛隊に包囲されて終わりだぞ!?
軍事AIはナオミのウィルスによって完全に破壊されてる。
ガンズオブパトリオットはもう起こりえない!」

3次元での移動を得意とする月光であったが唯を抱きかかえているせいか、動きが鈍い。
唯の体に掛かるGに配慮しての事なのだろう。
「あははは~鳥みたい~ウフフフ~」
唯は恐怖のあまり現実逃避を行っているようだった。

「もう少しで追いつく!」
『スネーク!後ろだ!』
スネークが後ろを振り返ると月光の巨躯が空から降ってくる。
バイクのスロットルを全開にすると数センチ後ろを月光の巨大な足が機体をかすめた。
更にもう一体の月光が前方にある交差点に降り立ち下半身を回転させローキックを繰り出そうとする。
「うおおおおおおおおお!」
スネークはバイクを限界まで横に倒し、地面と体が接触しそうになるまで車体を低くする。。
タイヤの焦げた臭いと甲高いブレーキ音が響きバイクの進行方向が90度変わった。




44 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 16:49:48.02 ID:wpCa8h470

前方に静止した小波運輸の大型トラックが見えた。
唯を抱いた月光がマニュピレーターを解き、それを合図にトラックから兵士達が降りてきて
唯をトラックの中に素早く運び込む。
『スネーク!あのトラックだ』
「分かってる!」

唯を降ろした月光もこちらに鳴き声を上げながら突進してきた。
3対1、分が悪い。

「先に月光を片付ける!近くに偽装バンはあるか!?」
『その道の50m先に白いバンが止まってる!武器はジャベリンとチャフ、それにM4』

スネークは白いバンを通り過ぎ少し先でUターンする。
月光3体と向き合う形だ。
そのままバイクを最高速にまで一気に加速させる。
一番前方にいた月光が脚部を振り上げスネークを狙った。
しかし、スネークは身を翻すとそのままジャンプし、巨躯を支える月光のもう1本の足に乗り捨てたバイクをぶち当てた。
鈍い音と共に月光がすっ転びスネークは路面を転がりながらもすぐに体制を建て直し
ハンドガンでバイクの燃料タンクを撃った。
小規模な爆発が起こり月光はそちらにセンサーカメラを向ける。
それを見届けるとスネークはバンに向かって猛ダッシュした。




45 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 16:52:33.39 ID:wpCa8h470



大型トラックに乗せられた唯はギターケースを抱えぶるぶる震えていた。
トラックの中には見たことも無い機材が並び兵士達が銃の手入れや装備のチェックを行っている。
「付近一帯の交通網アクセス権限掌握。一般車両の邪魔は入りません。このまま合流地点まで1直線でいけるかと」
コンピューターの前に座った兵士がキーボードの上で指を踊らせながら言った。

「司令、やりましたね!」
兵士の1人が唯ともう1人、司令と呼ばれた人物を交互に見ながら興奮した様子で話す。
「まだこれからだ。フォックスハウンドは伊達じゃない。スネークは必ずやって来る。気を抜くな」
司令と呼ばれた男は強化外骨格を着た他の兵とは違い
迷彩柄の標準的な歩兵兵装でサングラスが印象的な男だった。

唯はイレギュラーな状況に困惑し、ただぎゅっとギー太を抱きしめた。
「……ギターか」
サングラスの男がそっと近付いてくる。
尻餅をついた様な格好で座っている唯の前に、彼は屈んで視線を同じ高さにした。
「ちょっと借りるぞ」
「ああっ!ギー太!」
「なーに、取って食うわけじゃない」

ギターカバーを開け中身を見るとサングラスの男は嬉しそうに言った。
「ギブソン・レスポールじゃないか。スタンダードモデルか?」
「う……うん。おじさん……ギター弾くの?」
「昔な、今は弾いてないよ。ピックも借りるぞ」

サングラスの男はギー太を抱えるとあぐらをかき2、3弦を弾くと深呼吸した。
小気味良くピックと弦が踊り、サングラスの男はギターを弾く事にしばし没頭する。
唯は予想外の事に面食らったが男の演奏技術の虜になるのにそう時間は掛からなかった。



47 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 16:55:05.87 ID:wpCa8h470

「すごい!これなんて曲!?」
「Trampled Underfoot。レッド・ツェッペリンの曲だ。カッコいいだろ」
男はひとしきりギターを触るとそれを唯の元へ返した。

唯はすぐさまギターを抱えるとさっきの物まねをする。
完全とはいえないがそれでも凄いコピー能力だった。
「凄いな」
「えへへぇ~」
唯はニヘラと笑う。

「おじさん凄いね!どーしてギター始めたの?」
「ん?そうだな……モテたかったからかな」
「動機が不純だよぉ」
唯は頬を脹らませている。
「じゃあお前はどうしてギターを始めたんだ?」
「え?あ~……えっとぉ~。
軽音部って軽い音楽って書くからてっきりカスタネットとかの軽い音楽ばかりやるのかと……」
唯は顔を真っ赤にしながらモジモジした。
表情がコロコロ変わって面白い。
「ぶはははは!そりゃーいい」
男は自分の膝を叩いて笑った。

「いきなり相棒を借りて悪かったな。お詫びに良い物をやろう」



48 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 16:56:38.69 ID:wpCa8h470

男は1粒の錠剤を取り出した。
「ケーキやお菓子は好きか?」
「うん、大好きだよ。いつもムギちゃんが持ってきてくれるの」
「そうか、だったらこいつを飲めばいい。ケーキがたらふく食える」
「え~でもケーキ1人でいっぱい食べたら、みんなの分が無くなっちゃ……がぽっ……んっぐ」
唯が話している間に男は錠剤を指で弾いて唯の口の中にシュートした。

「もう!ひどいよ!」
「はははは!悪い悪い。毒じゃないから、安心しろ」
「そーいう問題じゃないよぉ、まったくぅ……」

彼女は人を引き付けすぐに溶け込み、心を満たしてくれる。
報告の通りだった。

「おじさん、名前なんて言うの?」

この子は巻き込まれるべきではない。
しかし、計画に必要不可欠な要素だった。

「俺の名前?俺ははカズヒラ・ミラー。日本語で平和って意味だ」



51 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 16:58:59.49 ID:wpCa8h470

唯を乗せたトラックはショッピングモールに向かっていた。
付近に近付くと一般人が蜘蛛の子を散らすように建物から逃げ出している。
別働隊が当初の予定通り建物を占拠したのだ。
トラックは物資搬入口に止められ、中からギターをぎゅっと抱いた唯がスヤスヤ寝息を立てながら運び出された。
カズヒラ・ミラーが搬入口に降り立つと、そこで警備していた兵士が敬礼した。
「無事、制圧が完了いたしました!」
「ご苦労、こっちも平沢唯を入手した。既に薬で眠らせてある。スプリガンの到着は何分後だ?」
「残り10分程で到着の予定です。他の部隊も到着完了しつつあります」
「よし、主役が来るまで何としても平沢唯とこの場所を守り抜け。
スネークが来たら俺に知らせろ、手は出すな」
「よろしいのですか?」
「月光を3機向かわせたが……たった今、全滅したらしい。正直言って化け物だよ」
「なら、尚のこと危険なのでは!?私は……命は惜しくありません!」

ミラーは小さくため息をつくとすれ違いざまに兵士の肩を軽く叩く。
「無謀な事はするな、だがどうしてもと言うなら、彼女を守ってやってくれ」
兵士は背筋を伸ばしミラーに再び敬礼した。



52 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 17:01:33.80 ID:wpCa8h470



非核装備型メタルギア「スプリガン」はショッピングモール目指し一直線に行動していた。
オタコンはノーマッド機内でその様子をつぶさに観察していた。

大佐の資料によれば装甲はセラミックチタンの複合装甲で
装甲の状態変化に伴い区画閉鎖や予備回路を自動で行う、メタルギアRAYと同様のシステムを導入していた。
更にリキッドがビッグシェルで見せた電磁波兵装による
弾丸、グレネード、ミサイル等の火器を無効化する技術も加えて堅固な装甲を誇っている。
武装は次世代兵器が主で、火器等は一切積んでおらず
対空対地迎撃用COIL酸素‐ヨウ素化学レーザーと長距離音響兵器であるLRAD
それに短中距離における戦術高エネルギーレーザーTHELが装備されていた。
機動面においては脚部ローラーによる高速移動と収納したアームを足部で展開する事で
悪路や段差を難なくクリアする事が出来た。
自己防衛能力の高さは他の追随を許さず現状で物理的破壊は絶望的とも言え、番人の名に恥じぬ性能だった。


55 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 17:05:11.07 ID:wpCa8h470

「ハル兄さん……ス、スプリガンが搭載してる戦略AIの事が、少しわ……分かったよ」
「本当かい?有難うサニー」
サニーが作ったフォルダを画面で開く。
大佐の提示した資料とネットに散らばる無数のヒントをサニーなりに集めまとめた物だ。
サニーは自分が集めた資料を1つづつ説明してゆく。

「スプリガンのニューロAIは3つに分かれてるの……
1つはスプリガンを動かす動物的なAI「レプタイル」
そして思考的な部分を司り愛国者のAIを操作する「ママル」
そして搭乗者の意識をデジタルにより反映させる「ゼロ」

えっと、ママルとレプタイルは当時天才と言われたAI学者ストレンジラブが1974年に基本理論を構築したとされていて
当時中南米を巡るCIAとKGBが関与したピースウォーカ計画の産物。
ママルにはビッグボスの師、ザ・ボスの人格を移植し核報復攻撃の意思決定の役割を果たす機能をになっていたみたい」
「ザ・ボスの?」
「うん、彼女は最初NASAの有人宇宙飛行のスタッフだったの。
ザ・ボスが乗ったロケットの……。性同一性障害で、彼女の机にはザ・ボスの写真が飾ってあった。
き……きっと尊敬してたし、好きだったんだと思う……ストレンジラブというのはそこの職員につけられたあだ名。
ビッグボスはピースウォーカーに搭載された記憶盤を全て抜き取ったとされていて
今回はその記憶盤を論理基礎データとしてニューロAIに記憶させたんだと思う……」



57 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 17:07:38.10 ID:wpCa8h470

「じゃあ、ゼロAIは何のために?」
「あ、愛国者のAIにアクセスする為の生体データの認証のために必要。けど……」
「それだけじゃない。そうだろ?それにしては容量があまり過ぎてる」
「うん。ごめんなさい……今はココまでしか分からないの」
サニーはしゅんと下を向いてしまう。
「いや、参考になったよ」
オタコンはサニーの小さな頭をなでてやる。

「けど、調べているうちに……関係あるかどうか分からないけどその国境無き軍隊が調べてたと思われる
別の資料群が見つかったの」
「何だい?その資料って」
「そ、相続者計画、それとジーンとウルスラの事例を調べてたみたい。
ジーンとウルスラはESP能力者で、えっと……
特にその能力や、メタルギアRAXAにウルスラが搭乗した際のデータをごっそり持ち出してるみたいなの……」
「何かありそうだね……もう少し調べてみよう。ありがとう、サニー」

画面上の地図にはショッピングモールを目指すスネークと同目的地を目指すスプリガンのマーカーが点滅していた。



59 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 17:10:48.47 ID:wpCa8h470



主要幹線道路を我が物顔で走行したスプリガンはショッピングモールを目測で捉えると
住宅街が密集する路地にその巨体を向けた。
脚部のローラーを引っ込め、無骨な爪を展開し民家のブロック塀や電柱をなぎ倒しながら爆進する。
スプリガンが通過した後には土煙が濛々と立ちこめ、切断された電線からは火花が散った。
勢いをつけたスプリガンはそのままショッピングモールの正面玄関に頭から突っ込み
1階天井を機体上部でえぐりとりながら吹き抜けのセンターホールへ向かった。

轟音と土煙と共にやってくるスプリガンには目もくれず
センターホール脇にあるコーヒーショップでミラーはコーヒーを立てていた。
センターホール中央に到着した瓦礫とホコリまみれのスプリガンは動きを止め
放熱用蒸気を排出した後、誰も乗っていないコックピットを開放した。
そしてそのまま身を屈め待機モードに移行する。

ミラーはコーヒーをマグカップに入れ終わるとコインを1枚店のレジに置いた。
黒曜石を溶かしたような黒い液体を胃に流し込む。
苦い。しかし力強く、野性味あふれる懐かしい味だった。
「ふむ……やっぱりコーヒーはコスタリカ産に限るな」
カップを持ったままミラーはスプリガンに近付く。
スプリガンのセンサー部分がミラーを捕らえた。

『タダイマ』
「ああ、おかえり」



62 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 17:13:48.04 ID:wpCa8h470

数分後、スネークはバイクのアクセルを全開にしたままショッピングモールの敷地内に入った。
オタコンの通信によるとスプリガンは既にショッピングモールに着いたのだと言う。
食料品売り場入り口のガラスを突き破りスネークが乗るバイクは建物内に進入する。
そのままスピードを落とさずセンターホールに向かうと嫌でもその巨大なシルエットが目に入る。
「……メタルギア」

スネークはホールに入った所で急ブレーキをかけ、車体で半円を描くとその場で停止した。
蟹の化け物のようなメタルギアの頭部のコックピットには平沢唯がヘッドギアをつけられ
すやすや寝息を立てている。しかし妙なのはギターケースごとベルトで固定されていることだった。

「彼女がギターを離そうとはしなかったんでね。相当大切らしい」
声がした方にアサルトライフルを向ける。
「心配するな、彼女には夢を見てもらっている。
一定の脳波を維持するために彼女が食べたいものを食べる夢を、な
食欲中枢の刺激は案外デリケートなんだ」

銃のサイト越しに写った人物を見てスネークが動揺しなかったと言えば嘘になる。
「マスター……ミラー。アンタ、生きていたのか!」
マグカップに入ったコーヒーを飲み干すとミラーはカップをコーヒーショップのガラスケースの上に置いた。


63 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 17:16:42.18 ID:wpCa8h470

「久しぶりだなスネーク。どうだ?1杯」
各国原産のコーヒー豆が詰まったケースをミラーがコンコンと叩く。
「お前が今回の事件の首謀者か?答えろ!」
スネークが吼える。
「そうだとして、お前はどうする?罪を裁き俺を殺すか?」
「俺の任務は彼女の護衛だ。俺は人殺しじゃない。
死んだと思っていた……何故なんだ!」
「変わっていないな、スネーク」

ミラーはスネークに向かってゆっくりと歩き出す。
「リキッドが欲しかったのはマスターミラー死ではなくマスターミラーとしてお前の行動をつぶさに監視することだった。
俺の死がフェイクかどうかなんてどさほど問題じゃなかったさ。それどころか俺はリキッドに感謝すらしてる」
「何?」
「当時フォックスハウンドのサバイバル教官に所属すると言う事は愛国者に操られるコマになることと同義だった。
気がついたときには俺はシステムの1部だった。
逃げ出そうとしても逃げられない。
お前もその中の1人だった。
ビッグボスを再起不能にし愛国者に対する唯一の抑止力を奪うという大役を演じたんだからな。
リキッドが与えてくれた虚偽の死はお前たちだけじゃなく、愛国者からの開放を意味していた。

俺は……自由を手に入れたんだ」



64 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 17:20:06.90 ID:wpCa8h470

「愛国者は死んだ!もう武器は必要ない!」
「愛国者が統治した世界は戦争経済という鞘に落ち着いた。
機械が人を殺す狂った世界だ。
スネーク、平和とは何だ?
大国が世界を統治する事か?
第二の愛国者が、AIが世界を統治する事か?
小国大国が入り乱れて戦争する事か?
核を撃ち合って人類が滅ぶ事か?

愛国者がいなくなった今、この世界には抑止力が必要なんだ。
統治じゃない、互いの力が均衡するバランスの取れた世界だ。
そしてそれはフェアでなければならない。
国同士の利権争いや宗教や思想、歴史に縛られない抑止力。
今世界は新たな形を成そうとしている。俺たちは何も無いその土壌に新しい法を根づかせる!
その為には力が必要だ、大国に匹敵するだけの力が!!」

「お前たちがそんな力を持つなんて事は不可能だ。そんな絵空事が通用するほど世界はヤワじゃない」ミラーの足がぴたりと止まる。
スネークが向ける銃口の目の先だ。
「確かにリスクは高い、ピースが噛み合うかも分からない。けれど隊を危険に晒す、それだけの価値はある」

ミラーは手を差し出す。
「新しい時代を作ろうスネーク。俺達にはそれが可能だ」



66 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 17:22:39.54 ID:wpCa8h470

「俺はお前たちに加担するつもりは無い!」
「そうか……残念……だっ!」
ミラーはスネークが構えたM4を一瞬で絡めとり分解する。
「ちいっ!」
すぐさま拳銃を構えようとするが顎と腕を持たれそのまま床に叩きつけられる。
拳銃が手から離れ床を転がった。
「がはっ!」

仰向けになったスネークの喉元にナイフが突きつけられる。
「ぐっ……愛国者のAIを今手に入れた所で何になる?自衛隊にすぐ制圧されるだけだ!」
「勝算はあるさ」
ミラーはナイフをそっと引っ込めた。
「平沢唯とゼロAIのリンク処理に後5分間時間がある。それまでに俺を倒してみろ。
リンク処理が終われば後は全てプログラムが行ってくれる。スリーピングビューティーは誰にも止められない」

スネークはゆっくりと立ち上がりCQCの構えを取る。
「そうだ、それでいい。
結局俺たちは、戦う事でしか自分の価値を見出せない。
戦う事でしか自分を表現できない。
ならば戦う事でそれを体現すればいい」


67 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 17:25:40.99 ID:wpCa8h470

スネークがジャブを放つ。
しかしその初弾はあっという間にミラーの両腕に捕まった。
体勢を崩され両足を踏ん張るも、軸足を払われ姿勢を崩される。
そこにミラーの膝が顔面に飛んだ。
「ごふっ」
顔を上げるとミラーの右ストレートが立て続けにスネークの顎を刈った。
ミラーの手を離れ数歩足が下がる。

しかしそれをミラーは見逃さなかず数発拳を打ち込む。
最後の打撃の軌道が甘い事をスネークは見逃さなかった。
手の甲で軌道を逸らし反撃しようとするももう一方の手でそれを受け止められる。

「お前は接近戦において最も合理的な方法で最も素早く相手にダメージを与えようとする」
ぐにゃりとスネークの腕をひねる。
「ぐああああああ!」

「だから軌道を読まれる、応用を利かせろ!」
さらにその腕に力が入る。
「ビッグボスはこんなものじゃ無かったぞ!」
スネークの体が弧を描き再び地面に叩きつけられた。

「これでお前は二度死んだ」
「はぁ…はぁ…いや、まだだ」
背中を軸に体を反転させ両足でミラーの足を挟み体勢を崩す。
四つんばいになったミラーにスネークが素早くチョークスリーパーをかける。
「ぐが……ぐ……」
スネークのこめかみに3度パンチを食らわせるとようやくその拘束から逃れる事が出来た。
しかし上からスネークが全体重をかけ後頭部目掛けてかかとを振り下ろす。
後頭部に凄まじい衝撃を受けた後、ミラーは地面とキスをした。



68 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 17:28:16.20 ID:wpCa8h470

二人はふらふらと立ち上がる。
そこからは互いに根競べだった。
1発殴っては1発殴られ、また殴っては殴り返す。
ダメージは確実に体に蓄積し次第に拳の重みが落ちてくる。

先に膝をついたのはスネークだった。
ミラーはスネークの顎をサッカーボールのように蹴り上げる。
「がぽっ!」

ミラーはスネークの上に馬乗りになった。
「ぜぇ…ぜぇ…俺の……勝ちだ!」
ミラーは体内に残った力を振り絞り拳を振り下ろす。
「今だ!オタコォォォォン!」
そう叫んだ瞬間スネークのスニーキングスーツから強烈な電撃が流れた。
生命維持に使われるエネルギーを電気エネルギーに変え一気に放電したのだ。

「ぐおおおおおおおお!」
「ぐうううううっ!」
バチバチと花火のような音を立て、二人の体は離れた。
スネークは歯を食いしばり体から細い煙を立てながら立ち上がる。
『システム起動マデ後20秒、作業員ハ離レテクダサイ』
スプリガンからアナウンスが流れる。

スネークはよろよろと走り出した。
ミラーはゆっくりと顔を上げる。
走るスネークの背中が見える。自分も追いかけようとするが体が動かない。
『9、8、7、6……』



74 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 17:44:06.63 ID:wpCa8h470

スネークがコックピットに手を伸ばす。
非常停止用のボタンが見えた
『5、4、3……』
スネークの足に衝撃が走る。
「何!」
咄嗟に自分の足を見ると強化外骨格をまとった兵士の1人がスネークの足にしがみつきタックルを放ったのだ。

『2、1……システム起動。T・J、A・L、T・R二アクセス開始』

コックピットが閉まりメタルギアの駆動音が唸る。
スネークにタックルをかました兵士はスネークと共にタイルの上に叩きつけられた。
「ぐはっ……ぜぇ……良く、やった……よく、彼女を守ってくれた……礼を言う」
ミラーはゆっくりと立ち上がる。
その兵士は物資搬入口でミラーに敬礼した兵士だった。
スネークは力を使いすぎたのか小さく息をしつつもうつ伏せのままだった。
「大丈夫ですか!?司令!」
兵士はミラーに自分の肩を貸す。

「俺もまだまだ青さが抜けて…ぐふっ……いないな。後は……スプリガンと、世界中に散った仲間がやってくれる……
時代は……俺たちを選んだんだ」



78 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 17:49:30.61 ID:wpCa8h470

ノーマッド機内でオタコンは愛国者のAIが国境無き軍隊に掌握されるのを確認した。
しかし、それだけでは彼らの勝ちではない。
この先にまだ何かあるのだ。

「ハル兄さん……」
「大丈夫だ、サニー。何とかしてみせる、希望を捨てちゃいけない」
オタコンはサニーを心配させないよう、優しく微笑んだ。

『こちら、ロイキャンベルだ。聞こえるか?』
ディスプレイ上のウィンドウに大佐の顔が映る。
「大佐、愛国者のAIが!」
『こちらでも確認した。それと、どのネットワークでもいいチャンネルを開いてみてくれ』

オタコンは言われるがまま適当なニュースチャンネルを開く。
そこに写ったのは崩壊しかけのショッピングモール内にある吹き抜けの屋内広場だった。
奥にはソリッドスネークらしき人物が横たわっている。

「何なんだ……これ……まさか……メタルギアの視点か!?」
『おそらくな。そしてこれは全世界の全メディアに流れている。
我々は専用のホットラインを解し、愛国者のシステムの外で通信を行っている。
だが他は、一般市民は愚か軍内部の一般事務コンピューターやテレビまでも完全に乗っ取られ
この映像が流れている。各交通機関、ガスや天然資源の一部のエネルギー供給もストップしている。
医療機関、一般航空は最低限運航出来るだけの余力は与えられているようだが、
それ以外は全てストップしていると考えていい』



79 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 17:53:18.88 ID:wpCa8h470

テレビ画面の映像に事件の首謀者カズヒラ・ミラーが姿を現す。
『マスター……ミラー』
かつて同じ機関に所属したミラーを目にし大佐は言葉を失った。
画面の中のミラーがゆっくりと口を開く。
『かつて……ザ・ボスと呼ばれる1人の兵士がいた。
特殊部隊の母、伝説の兵士、祖国を売った売国奴、ソ連の地に核を撃った狂人……人によって解釈は異なる。
しかし彼女は確かに歴史を変えた。

かつて……ビッグボスと呼ばれる1人の兵士がいた。
ザ・ボスを殺し、祖国を捨て、あらゆるものに縛られない本当の意味での自由国家を作った。
彼は確実に歴史の流れを作った。

かつて……ゼロと呼ばれる男がいた。
愛国者なる組織を形成し世界を合理的なシステム下に置こうとした。
やがてその思想はAIへと引き継がれ戦争経済による需要の上に世界を構築した。
彼は確実に歴史の支配者だった。

しかし今俺達は、全てを失った。
冷戦が再び復活するのか、それとも世界大戦が始まるのか、誰も分かりはしない。
行く先を照らしてくれる指導者もシステムももはや存在しないんだ。
戦争経済は破綻した。
世界は新たな在り方を模索する』



80 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 17:56:29.65 ID:wpCa8h470

『俺達は怖い。資源を求め、このどさくさに紛れ大国に飲み込まれるのが。
 俺達は怖い。独立と報復を仰ぎ、小国に反旗を翻されるのが。
 俺達は怖い。報復と報復の螺旋が。
 俺達は怖い。不安定なこの片足立ちの世界が。

今、この世界に必要なものは何か?
それは混沌とした世界を法の下に裁ける公平かつ強力な力だ。
一言で言うなら

そう……抑止力だ。

かつてコールドマンが唱えた抑止力論とは違う。
機械が核を撃つんじゃない。人間が核を持つ事に意味がある。
人は核を……報復の為に、核を撃てるんだ。
皮肉にもコールドマンはそれを証明してしまった。
そしてその力を持つものは真の意味で公平でなければならない。
愛国者達が目指した完全な支配とは違う、国家と抑止力の完全なバランス。

……俺達は手に入れる。
国家間の政治的理由に左右されない国家と同様の……いや、それ以上の力を!』

オタコンはぎゅっと拳を握り締めた。
「何を馬鹿な事を……僕達は…僕達は銃を突きつけあう為に戦ってるんじゃない……」
『俺達が力を得るには愛国者のこのシステムと、もう1つ……必要なものがある』
オタコンがごくりと唾を飲み込んだ。

『世界中に点在するメタルギアの亜種、それらを強奪する』



97 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 19:29:51.88 ID:wpCa8h470

「大佐……」
『ああ、一般回線は死んでいるが軍同士のネットワークは生きている。
直ちに国連軍を派遣し国境なき軍隊をこの世界から排除しなければならない』
大佐はすぐにでも連合軍を組織する勢いだ。

『と……その前にやっておかなければならないことが1つある』
ミラーはサングラスをくいと上げた。
『ここまで大口を叩いてきたが俺にとってはココからが正念場だ。
俺達が世界の法となるか、ただの笑いものになるかは「眠れる森の美女」に全てを託すしかない』
「何のことを言ってるんだ……」
『火の始末はちゃんとしたか?車は車道の脇に止めているか?
それが出来たなら次にお前たちが目覚めた時、世界は新たな時代を迎えた後だ』

ESP、ネットワークシステムの掌握、ゼロAI、平沢唯
そして……眠れる森の美女。

ピースがオタコンの中でカチリとはまる。
「駄目だ!大佐!!今すぐ家のブレーカーを落とすんだ!!!」

ディスプレイの中でミラーはチシャ猫のように、にやりと笑う。
『それでは皆様……良い夢を』



100 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 19:35:59.44 ID:wpCa8h470

スネークがその重い体を起こしミラーの方に向き直る。
ミラーはスプリガンの方を向いていたが彼もまたスネークに視線を戻す。

『アーイースゥー!アーイースゥー!』
スプリガンが大音量で謎の言葉を発した途端ずしりとスネークの体が重くなる。
殴り合いのせいではない。
強制的に脳が動かなくなるという感覚だ。
強烈な脱力感にまぶたが痙攣する。
目を閉じれば確実に意識を失う自信があった。

「驚いたな、スネーク。ESP洗脳対抗訓練を受けているとは言えたいしたもんだ」
「何を……した……」
「平沢唯の脳の状態と、この声を聞いている全ての人間の精神状態を強制的にリンクさせる。
ゼロAI、そして愛国者のネットワーク、彼女の声が持つ能力をフルに使ってな」
「な……何だ…と?」
「平沢唯のESP能力はお前も知っているだろう。
自分の脳波を他者に同調させる声を持っていると。
彼女の能力は微弱だがゼロAIを介すことで出力を調節する事が理論上では可能だった。
メタルギアRAXAのデータが生きたんだ。
機械とESP能力者の相互運用に成功した数少ない事例だからな。CIAには感謝しなきゃならない。
ぶっつけ本番だったが……行動しない手は無かった」



103 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 19:39:38.56 ID:wpCa8h470

より一層体へ睡眠への欲求が体を蝕む。
スネークは咄嗟に耳を塞いだ。
「無駄だ。この声は聴覚神経を骨伝導により刺激する。
その信号は脳の腹外側視索前野を介して入眠ニューロンの活性化を促す。
さらにニューロン間の低周波での同期を利用し、平沢唯が置かれている浅い眠りノンレム睡眠状態へ一気に移行させる。
俺達MSFには聴覚神経にこの信号が入った時それを遮断するナノマシンが注入されてる。
この世界で今起きてるのは一部の医療関係者と航空旅客機のパイロットそれに俺たちだけだ」

スネークは白目を向いていた。
ミラーが何を言っているのかもはや理解できない。
限界だった。
「彼女が眠れば世界も眠る」
ミラーは倒れたスネークの前に立ち見下ろした。
「スネーク、俺はこの世界を変えてみせる。目覚めを楽しみにしておけ」

そう言うとミラーはスネークの前から姿を消した。
その後ろ姿を見たが最後、彼の意識は深い闇の中へと落ちていった。




107 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 19:44:46.51 ID:wpCa8h470



サニーはパソコンの前に突っ伏して眠っているオタコンを見上げていた。
画面上ではロイキャンベルが同じように机の前に突っ伏して寝息をたてている。
オタコンと大佐が眠っている理由は今も尚、世界中に流れ続けているこの平沢唯の声のせいだというのは分かる。
しかし、サニーは何故自分が起きていられるのか不思議だった。
幸いノーマッドは自動飛行中である。
しかしこの状態をほおっておくのは不味かった。

「ま、まずは……ハル兄さんをお、起こさなきゃ……」
オタコンの服のすそを持ち、ぐいと引っ張る。
ぐにゃりとオタコンがサニーに覆いかぶさりそれを必死で受け止めると
よたよたとした足取りでオタコンを床に寝かせた。
オタコンが座っていた席にサニーは座り平沢唯の声紋と分析データを解析する。
原因と思われる複数のファクターを除去するフィルタープログラムを突貫工事で進めた。

データには既に目を通していた事もあり見る見るうちにプログラムが組みあがった。
システムをスパコン内ですぐさま実行すると今度はオタコンの横へ行く。
「ハル兄さん……起きて……ハル兄さん」
「う……サニー……目玉焼きはもう食べられないよ…むにゃ」
オタコンは体をゆすっても起きなかった。
口から出るのは寝言ばかりである。
GABA作動系神経が抑制状態で固定されているのが原因なのだろう。




109 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 19:50:10.76 ID:wpCa8h470

サニーは機内の奥からメタルギアMk2の予備機Mk3を持ち出した。
赤いカラーリングのMk3のコントローラーを持ち動作確認をする。
「これなら……いけるかも」
Mk3からマニュピュレーターが伸び青白い火花をぱちぱちと鳴らす。
「え、えいっ!」
オタコンにマニュピュレーターが触れ、陸に打ち上げられた跳ねる魚のようにビクンと体がうねった。
「うわぁああああああああ!!」
「ハル兄さん!」
「え……あ……あれ?僕は何してたんだっけ?あ、サニーおはよう」
「おはようじゃない、大変。みんな眠っちゃった」
「眠ったって……僕は……そ、そうだ!ミラーは!?」

オタコンはずれたメガネを直しモニターを確認する。
『ショートケーキィー、モンブラーン。アハハハハァー、ウフフフゥー』
テレビのチャンネルはどの局からも呪文のような声が流れていた。
スプリガンはショッピングモール屋上にて不気味な笑い声を上げ続けている。

急いでオタコンは世界の状況を確認した。
メディアが溢れかえる各国の首都圏は完全に沈黙し
軍事基地も満足に機能しておらずパニックを起こしている状態だ。
あの演説は軍関係者を釘付けにする罠だったのだ。

考えうる中で最悪に近い状況である。



111 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 19:54:48.30 ID:wpCa8h470

スネークが意識を失う直前までの会話も勿論耳を通す。
「何てことだ……」
いくつかの基地は襲撃が始まっているらしく、運良く催眠放送を聞かなかった兵士も
音響装置と共に進軍するテロリストに手も足も出ない。
対生物兵器装備でも音の攻撃には成す術が無いようだ。
今すぐに状況を打開しなければ世界はミラーが望む世界が待っている。

人類の歴史のターニングポイント、今まさにオタコンの肩にそれが圧し掛かっていた。
「考えろ……考えるんだ……」
オタコンは頭を抱えた。
スネークならこの状況にどう立ち向かったのだろう、そんな事を考えてしまう。
「ハル兄さん……どうなっちゃうの?」
サニーにはいつも心配を掛けてしまう。
自分が彼女を守らなければならないのに、先ほども彼女の手によって目を覚ます事が出来た。
サニーがいなければ今頃は……
「……あれ?」
おかしい。
1つの疑問がぶくぶくと音を立てて膨れ上がる。
オタコンはサニーの方を見た。
サニーはきょとんとしている。

「サニーは……どうして眠らなかったんだ?」




113 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 19:59:42.91 ID:wpCa8h470



平沢唯は白い空間にいた。
空も床も周りの空間も全て白い。
ただ1つ白いテーブルがありその上には色とりどりのケーキと紅茶が並んでいる。
「もぐもぐ、あぁ~幸せぇ~!こんなに沢山のケーキがあるなんて夢みたいだよぉ」
ケーキはいくら食べてもなくならず、お腹もまったく膨れない。
彼女にとっては夢のような場所だった。

口元がクリームまみれの唯が顔を上げると、テーブルの向かいに凛々しい顔をした女性が座っていた。
体にフィットするその白いスーツは普通の服には見えず、戦闘用に開発されたもののようだ。
そして床を見ると緑のイグアナがぺたぺたと地面をはっている。

「相互リンク各AI安定化、現状態デ固定シマス」
イグアナが急に口を利き唯は目を輝かせた。
「わぁ!このイグアナ喋るよ!凄いね!」
「彼はレプタイルよ、スプリガンを動かしているのは彼」
向かいに座った女性が口を開いた。
「へぇーそうなんだー。
すぷりがんが何なのか良くわかんないけど……あ!これ美味しそう!あむっ、もぐもぐ」
唯はシフォンケーキを頬張る。
「もぐもぐ、あなたの名前は?」
唯はテーブルに身を乗り出す。
ケーキと紅茶カップを乗せた皿がカタンと踊る。

「私はザ・ボス」
「変わった名前だねぇ~。えっと、私は平沢唯!よろしくね」
にへらと笑うと唯はまたケーキやアイスクリームの虜になった。



116 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 20:06:14.28 ID:wpCa8h470



サニーはあの平沢唯が発信源の催眠音波を聞いても眠らなかった。
その原因をオタコンはひたすら考える。
世界中の人間とサニー、何がこの結果を生んだのか。
生まれ持った体質なのか、それとも別の要因か。
オタコンが考えを巡らせていると桜が丘高校の校門前で自動待機モードにセットしていたMk2のカメラが
生徒を偶然映した。
眠っているのではない、4人が何やら話し込んでいるようだ。
少し距離があり映像が鮮明ではなかったが、明らかに彼女らにはこの洗脳放送が効いていないようだった。

「何……だって?どういう事なんだ?」
オタコンはすぐさまMk2の待機を解除する。
カメラをズームし彼女らの輪郭を捉えたとき、オタコンは1つの答えに辿り着いた。

4人の生徒、それは律、澪、紬、梓だった。

「そうか……歌だ……」


118 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 20:11:29.84 ID:wpCa8h470

オタコンはサニーに向き直る。
「サニー、君は彼女らの歌をずっと、それこそ何十回も聞いていたよね?」
「……うん」
「君が眠らなかったのは彼女たちの歌が原因だったんだよ!」
オタコンは興奮した様子でボイスサンプルを引っ張り出す。

「彼女の歌はノルアドレナリンやセロトニンの分泌を促すんだ。
彼女の歌を聴き続ける事でGABA作動神経回路が組み変わったんだよ!
だから同じ部で活動していた彼女たちも平気なんだ。
毎日彼女の歌声を聞くことで抗体をつけていたんだ」

「けど……それだけじゃ状況は変わらない……」
サニーは冷静だった。
「あ……そうか……そう、だよね」
そう、オタコンとサニー、女子高生4人ではどうする事も出来なかった。
各国で戦闘は既に始まっている上に愛国者の強大なネットワークはMSFの手中にある。

「いや、まだだ……諦めるもんか!」
オタコンはMk2のステルス迷彩を切る。
「出来る事をしよう!僕たちに出来る事を探すんだ!」



120 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 20:15:22.53 ID:wpCa8h470



「梓!そっちはどうだった!?」
「駄目です……みんな眠っちゃって……体を揺すっても起きなくて」
軽音部のメンバーは校門前に集まりこの街に起こった怪現象に戸惑いを隠せずにいた。
生徒も、先生もそれどころか街の住民が寝息を立て、テレビからは唯の声が延々と流れている。
「唯ちゃん……大丈夫かな」
紬がスカートのすそをぎゅっと握る。
澪は電柱にへたり込みぽろぽろと泣いていた。
律が慰めようとするも、どう声を掛けていいのか分からず出しかけた手をそっと引っ込めた。

「先輩!あれ!」
梓が指差す校門の方からラジコンのようなロボットのような物体が近付いてくる。
足にローラーがついているのか、あっという間に小さなロボットは軽音部の前にやってきた。
ディスプレイが開き、画面に1人の男が映る。
白衣を着てメガネを掛けた科学者のような出で立ちの男だ。

『君達……軽音部の部員だね?』
「な……何もんだ!」
律は警戒している。他のメンバーも怯えていた。
この状況下では無理も無い。



122 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 20:18:38.13 ID:wpCa8h470

『僕はハル・エメリッヒ。スネーク
……いやジョン・コジマの友人だ。
僕の事はオタコンと呼んでくれてかまわない』
「ジョン先生の友達!?なぁ、唯はどうなった?大丈夫なんだろうな!」

律がMk2に掴みかかり機体をぐらぐら揺らす。よほど心配なのだろう。
「あああああ、揺らさないで!バランサーがおかしくなる!」
律がぱっとMk2から手を離す。
「ふぅ……平沢唯の安全は大丈夫と言えば大丈夫だ。
今彼女は夢を見てる。覚めない夢をね、この放送が証拠さ」
「夢?何のことだよ!」

オタコンは現在平沢唯が置かれている状況、そして彼女の能力
スプリガンについて出来るだけわかり易く簡潔に彼女らに伝えた。

何かの手がかりなればいい。
藁にもすがる思いだった。



124 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 20:21:29.79 ID:wpCa8h470

唯がシュークリームを食べ終わると不意にペタペタ床を這うレプタイルの方を見た。
依然として白い空間の中である。
「いい事思いついた!ねえ、レプタイル」
イグアナが首を唯の方に向ける。
「ハイ」
「あだ名をつけてあげるよぉ」
「アダナ?」
「そう!」
「ソノヨウナ言葉ハ登録サレテオリマセン」
「うーんと、要するに名前みたいなもんだよ!仲良くなりたいなーって思った時にはこの名前で呼ぶの!」
「……理解シタ」
「えーと、じゃあねぇ……あなたの名前はレプ五郎ね!可愛いでしょう!?よろしくねレプ五郎!」
「カワイイ……レプ五郎……」
「気に入らなかった?」
「……認識シタ」

「そっかぁ~よかったぁ。あ!ザ・ボスのあだ名も考えて……」
「……私はそのままでいい」
ザ・ボスはそう言うと唯の方を見た。
目つきが鋭い。
「ボーちゃんって言うんだけど……ダメ?」
上目遣いでぶりっ子してみる。
「……私はそのままでいい」
失敗だった。



126 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 20:25:53.35 ID:wpCa8h470

「あの……司令」
擬装トラックの中で通信兵がミラーを呼び止めた。
今から港へ向かい国内からの脱出を企てる所である。
「どうした?」
モニターの方へミラーが近付く。
「これ……どう思われます?」
兵士が指差す先には各AIの動作状況を示す画面が開かれていた。
AIママル、AIゼロ。そして……AIレプ五郎。
各AIの表記は確かにそう書き換わっている。

「ウィルスか?」
ミラーは苦虫を噛み潰したような顔だ。
「いえ、外部からの干渉ではないと考えられます。表記が変わったのは今から1分前。
ゼロAIつまり平沢唯がレプタイルAIに相互干渉を促した形跡があります」

3つのAIはデータを常に断片的に共有し、個々の自我を保ちながら互いにバージョンアップを繰返す。
特にママルとレプタイルは大脳と小脳のような関係にあり、情報交換が顕著だ。
しかしこの唯による奇妙な干渉はイレギュラーな事態だった。
干渉しなければ唯の催眠音波は外部に発信できない。
「撤退の準備を急ぐ。この先何が起こるか想像がつかん。
ショッピングモールに残るスプリガン及び全部隊も、迎えの船が来る前に港に移動させろ」
「了解、スプリガンには港への進行ルートを送信してあります。
彼女の脳波も固定されています。問題ありません」

ミラーはそっとレプ五郎の文字を指でなぞる。
「問題ありません……か……嫌なフラグだ」



128 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 20:31:14.21 ID:wpCa8h470

「じゃあ、唯は蟹の化けモンの中でグーグー呑気に寝てるって言うのかよ?」
『あわわ、また!揺らさないで!壊れちゃうよ』
律は興奮気味に再びMk2をゆさゆさ揺さぶった。
「唯を……唯を助ける方法は無いんですか!?どうやったら目を覚ますんですか!?」
がっくりとうな垂れていた澪もほんの小さな変化に希望を託し、オタコンに詰め寄った。
『彼女の眠りの状態は特殊なんだ。
放送を聞く限り睡眠の誘発と食欲中枢に何らかのショックを持続的に与えられ続けてる。
別の要因、つまりそれ以外の大きなショックを彼女に与えないと彼女は目を覚まさない』

「あの……1ついいですか?」
梓がおずおずと手を上げる。
「もし仮に唯先輩がその眠りから覚めたらどうなるんですか?……まさか死んじゃったりしないですよね!?」
『それは大丈夫だと思う。ゼロAIは浅い眠りの時、つまりノンレム睡眠時意外の脳波を送り続けると
システムエラーを起こすんだ。システムは搭乗者の精神汚染を最優先で保護するようプログラムされてるからね。
ゼロAIが停止すると相互情報伝達が不可能になり、ママルとレプタイルは機能を一時停止するだろうけど
……問題が1つある』
「問題?」
「彼女にどうやってショックを与えるかさ。
スプリガンはイングランドじゃ「宝を守る番人」とも呼ばれている。
その名前を冠したこのメタルギアは守りに特化したAI兵器だ。仮に核爆弾が頭上で爆発しても各AIは作動し続ける。
仮に僕が乗ってるノーマッドで特攻をかけてもキズ1つ付けられない」

「あの~私からもいいですか?」
今度は紬が小さく手を上げる。
「外で起こってることは唯ちゃんには伝わるんですか?浅い眠りの時って、外の影響を受けやすいじゃないですか。
夢を見たりするのってその時ですよね?」
『感覚器官を司るレプタイルと相互情報交換をしているから少しは入ってくるだろうけど……
受け取り手側の平沢唯が興味を示すものじゃないとゼロAIはそれを受け取らない』



130 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 20:35:12.30 ID:wpCa8h470

「それって、唯が興味を示す事をすればいいって事?」
澪が顎に手をやって何やら考えているようだ。
『そうだよ……けどそれは不可能に近い。彼女の脳波、放送を分析する限り彼女はあの夢から出たくないはずだ。
あの世界で不変を望んでる。好きなものを好きなだけ食べる。
平沢唯の資料には菓子類が好物とあるし、それを壊すなんて僕には無理だ』
Mk2が首を横に振る。
しかし何故か4人の表情が次第に明るくなる。
示し合わせたように互いに顔をみて頷きあっている。

「あんたはさ、機械とか科学の事よく知ってるのかもしれないけど、私らは唯の事を誰より知ってるつもりだ。
私は……私達は今出来る事をやる。
ジョン先生にそう教えてもらったんだ」

『俺は俺が出来る事をする、だから君は……君が今出来ることをするんだ』

スネークの言葉が律の心にはちゃんと残っていた。
律がそう言うと、澪も紬も梓も力強く頷いた。
オタコンだけは何をこれからするのか分からない。

「君達……これからどうする気なんだ?」
「手伝ってよ、今この街で起きてるの私らだけなんだからさ!」
放課後ティータイムのメンバーが校舎に向かって走り出す。
オタコンはわけが分からないまま彼女達の後についていった。



132 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 20:41:03.80 ID:wpCa8h470



夢の中では時間の概念があやふやな様に、唯もまた時間と言う概念を無視しながらケーキをほお張り紅茶をすする。
ケーキは現在110個目に突入していたがその数を把握しているのはレプタイルだけだった。
「平沢唯」
「ふぁふぃ?」
対面に座るザ・ボスが急に口を開く。
「お前は何に忠を尽くす?国か?恩師か?名誉か?思想か?」
「ちゅう?」
「何を信じるか、と言うことだ」

ケーキを口に運ぶのをやめ、眉をへの字にして唯は考える。
そんな事を考えた事が無かった。
普段難しい事を考えないせいか頭から湯気が出る。

ふとどこかで、何かが聞こえた気がした。
唯の中で何かがコトコトと動いた気がする。
そしてその正体がザ・ボスが出した質問の答えのような気がした。
「何だろう……音が聞こえる……」

かすかに聞こえた音の断片が次第に輪郭を現す。
それらは繋がり、交わり、重なってひとつとなる。
はっと唯は顔を上げた。
この音が何なのか知らないはずが無い。
毎日聞いた、あの音の波を。
毎日弾いた、あの弦の感触を
毎日叫んだ、あの歌を

唯は急に立ち上がる。



134 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 20:45:32.69 ID:wpCa8h470

見つけたのだ、自分なりの答えを。
「分かったよ!ザ・ボス!歌うこと、歌う事だよ!」
「歌う事?」
「うん!好きな事してると、あぁ~!生きてるぅ~!って感じするでしょう!?」
唯は急にそわそわしだす。
この場所にはケーキと紅茶しかない。
聞こえる音はどんどん大きくなってきているのに、何も出来ないジレンマが唯を襲った。
「じっとしていられない……と言う顔だ」
「うん……演奏したい!1人でじゃなく、みんなと!」
「そうか……いいだろう。ならレプタイルを連れて走れ」
レプタイルはくるりと顔をザ・ボスのほうへ向ける。
「ママルAIザ・ボスの提案ヲ、処理能力過多ノタメ放棄シマス。平沢唯二コノ件ヲ委譲」
「行くよ!私!」
唯は地べたを這っていたレプタイルを抱き上げる。
「ありがとう!あ、ザ・ボスその紅茶あげるよ!」
唯はレプタイルを抱いて曲が流れてくる方向へ走り出した。

ザ・ボス、正確には彼女の精神を模したAIはそんな唯の背中を見ながら自分が何に忠を尽くしてきたのか考えた。
生前ザ・ボスは任務に忠を尽くした。
けれどその生命最後の感情は、自ら銃を捨て歌う事だった。
最後の記憶はミラーが加筆したデータだ。
ママルポットのオリジナルを搭載したピースウォーカーの最後。
自己犠牲の果てに世界に平和を願い、歌を歌った。
平沢唯もまた同じように歌いたいのだと言う。
それを何故か暖かいと感じる自分がいる。
なるほど、これが嬉しいと言う事なのかもしれない。

唯の紅茶に彼女は手を伸ばす。
暖かかった。
「……おいしい」


137 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 20:51:05.70 ID:wpCa8h470

ミラーの乗るトラックの中は異常を知らせる警告音が響いていた。
「ゼロAI異常発生!パルス異常誤差30%!尚も増加中」
「何事だ?」
「分かりません、しかし、平沢唯の心理グラフが乱れています
GABA抑制が緩和、各種覚醒物質が規定値を超え始めました」
ミラーはスプリガンのライブ映像を食い入るように見つめる。

催眠放送が不意に止み、スプリガンが勝手にショッピングモール屋上から下り始める。
「スプリガンが下り始めた、催眠放送も止まった!」
「こちらからは何も指示していません!……これは……」

画面を見たミラーは体が固まった。
通信兵が状況を報告する。
「ゼロAI平沢唯が……レプタイルAIを掌握……しました」

スプリガンが地上に降り立つと何かを探すように全周囲を見回した後、移動を開始する。
『ムギチャン……リッチャン……ミオチャン……アズニャン』



140 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 20:56:27.61 ID:wpCa8h470

桜が丘高校の体育館で、放課後ティータイムのメンバーは唯抜きの演奏を行っていた。
学校の放送設備は何とかオタコンが掌握し、校舎内にある全てのスピーカーを解放して
スプリガンに向けて曲を演奏しているのだ。
律も澪も紬も梓も、自分たちが音楽を奏でる事が
唯が興味を示す事であり大好きな事なのだと確信していた。

1曲目を歌いきると梓はMk2に聞いた。
「どう……ですか?何か変化ありま……」
『すごい!すごいよみんな!催眠音波が止まった!
スプリガンのセンサー郡に君たちの演奏が引っかかったんだ!』
オタコンは興奮していた。無理も無い。
「えへへへ」
梓が照れくさそうに笑う。

「よし!ジャンジャン演奏して唯の目を覚まさせるんだ!」
律がドラムのスティックを振り上げる。
メンバー全員が揃って頷く。
「よし次は筆ペンボールペン、行くぞ!」



143 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 21:01:53.84 ID:wpCa8h470

オタコンは催眠放送が止まったこの時を待っていた。
「スネーク!起きてくれ!スネーク!」
『ぐう……むにゃ』
通信を入れるも効果が無い。
放送が止んでも催眠効果は持続するのだ。
現にオタコンもサニーに電撃を与えられ半ば強制的に目を覚まさざるを得なかった。
スネーク体内にあるナノマシンが正常に稼動していたのは幸いで傷口はだいぶ塞がり、ダメージも回復しているようだった。
「……しょうがない……恨まないでくれよ」
オタコンは放電スイッチを押した。スネークの体に衝撃が走る。
ミラーにダメージを与えたあの電撃だ。
「ぐああああああああ!」
放電がおわるも、スネークはぐったり横たわったままだ。
体からプスプスと細い煙が立ち昇る。
「だ……大丈夫かい?スネーク」
オタコンが恐る恐る聞く。
「うう……オタコンか……」
「目を覚ましたんだね!良かった!」
「次は……もっとマシな方法で起こしてくれ……いつか心臓が止まりそうだ」
スネークがゆっくり半身を起こす。
「頭がひどくボンヤリする。状況は?」
「スプリガンを何とか出来るかも知れない。すぐにスプリガンの元へ向かってくれ。
何が起こってもいいように彼女の傍にいて欲しいんだ」
「ああ、詳しい話はそっちに向かいながら聞く。場所を教えてくれ」

スネークは頭を振ると銃を拾い出口に向かって走り出した。



147 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 21:08:26.33 ID:wpCa8h470



唯はレプタイルを抱いて白い空間を走った。夢と現実の狭間で彼女は息を弾ませる。
頭に届く音が次第に大きくなる。
ドラムの音がビートを刻む。ベースがラインを敷く。ギターとキーボードがメロディーを奏でる。
自分もその音の波に飛び込みたかった。

「ゼロAI平沢唯二、駆動制御機関オヨビ視覚野ガ制圧サレマシタ。機能ノ委譲ヲ行イマス」

白い空間がパァっと開き、外の視界が360度一気に開ける。
ちょうどそれは唯の通学路だった。視界が開けると唯の走るスピードがぐんと上がった。

そういえば、入学式の時もこの道を走った。
何かしなきゃ
何をすれば良いんだろうと思いながら
このまま大人になってしまうのかな……と焦りながら。

機械の足がアスファルトをえぐって足跡を残す。
ガードレールがひしゃげ引きちぎられる。
脚が引っかかって街路樹が根元から倒壊する。

大丈夫だよとあの時の自分に言い聞かせる。
すぐに見つかるから。自分にも出来る事が、夢中になれることが。

踏み切りを飛び越え、商店街を走り抜ける。

自分には帰る場所がある。
そう、自分にとって大切な……大切な場所が。


149 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 21:14:08.28 ID:wpCa8h470

ミラーは不測の事態に戸惑いを隠せなかった。
当初、入力していたスプリガンの移動コースが修正され桜が丘高校へ向かうようデータが上書きされているのだ。
こちらからの要請は受け入れられず正に暴走という状態に陥ってしまった。
各AIのやり取りは活性化の兆を見せており、ママルAIと唯が交信を行った後
レプタイルが唯に掌握されたのだという事が分かった。
唯は半覚醒状態にある。
完全に目覚めてしまえばゼロAIとの神経接続が途切れ、スプリガンは待機モードに移行するようプログラムされていた。

「俺達の部隊は直ちにスプリガンを追う!催眠効果はまだ持続中だ、スプリガンを再起動させる!
残り1機の月光も俺達のトラックに並走させろ」

退避命令が出ていた月光もその場でぴたりと止まり向きを変える。
重々しい雄たけびを上げるとトラックを護衛しながら移動を開始しだした。

「唯を解き放ったのは……ザ・ボス……アンタなのか?」

擬装トラックはタイヤを軋ませながら180度ターンすると、もと来た道を猛スピードで走った。
心にモヤモヤとした気持ちを残しつつミラーは邁進するスプリガンを追った。



152 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 21:18:17.66 ID:wpCa8h470



誰もいない体育館のステージで、澪は歌う。
恥ずかしがり屋の澪が、あらん限りの声を出してがむしゃらに。
細い首筋からは汗が流れて、それをぬぐう事もせず全力を曲に注いだ。
澪だけではない。
律も、紬も、梓も自分の音を全力で奏でる。
こんな時なのに、世界中の人間が眠ってしまっているのに
彼女たちは言い知れぬ幸福感に満ちていた。

彼女たちは決して、超能力者でもなければ預言者でもない。
けれど信じる事が出来た。

今、自分がやるべきことは歌を歌う事なのだと。

地響きが遠くから聞こえる。
律がニッと笑みをこぼす。

彼女の足音だ。
それはだんだん大きくなってきて、足にビリビリと振動が伝わる。
巨大なものが自分たちに近付いてくるのだ。

最後のメロディーラインを奏で終えると同時に体育館の側壁をぶち破り
彼女は姿を現した。



155 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 21:24:48.26 ID:wpCa8h470

『やった……奇跡だ……奇跡だよ……』
Mk2がマニュピュレーターと小さな液晶画面をパタパタさせながら喜ぶ。

『ゼロAI接続者トノ神経接続断絶。緊急停止シマス。オツカレサマデシタ』
半身を体育館に突っ込んだスプリガンは、廃熱蒸気を排出すると動かなくなった。
『今だ!』
Mk2がスプリガンに近付く。それを見ていたメンバーたちも走ってスプリガンの所へ走った。
足元にある緊急用のコックピットハッチにオタコンはMk2経由でデータを入力する。機械音とガスが抜ける音が鳴り、コックピットが開いた。
「唯!」
「先輩!」
ヘッドギアをつけた唯はギー太と一緒にぐったりしていた。律と梓は、コックピットによじ登る。澪と紬も心配そうにその様子を見守った。
「唯!しっかりしろ!唯!」
律が唯のヘッドギアを外す。
「先輩!返事をしてください!」
梓は涙を流しながら唯の肩を揺らした。
「うう……あずにゃん?……りっちゃん?……」
唯がゆっくりと手を伸ばす。
「ああ!そうだぞ!私だ!部長だぞ!」
律は唯の手をぎゅっと握った。
「あ……あずにゃん……」
「何ですか……ぐすっ、唯先輩……」
「軽音部のこと……ぐふっ!……よどじぐで……あふっ」
「先輩!どうしたんですか!?先輩!!」
「私は……もう駄目だよ……自分で分かるもん……軽音部最後の星は……げふっ!あずにゃん、あなたよ……」
「おい唯!しっかりしろ!唯!」

唯の手はするりと律の手を離れ、紐の切れた操り人形のようにガクッとうな垂れた。
「先輩?……唯先輩?……ぐすっ……ぐすっ……返事をしてください……ぐすっ、唯先輩!!!!」


159 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 21:30:37.88 ID:wpCa8h470

「なーんちゃってぇー」
「え?」
唯が顔を上げぱぁっと笑う。律と梓は目に涙をためたままポカンとしていた。
「いやぁ~、こんなチャンス滅多に無いからねぇー。こー言うの一度やってみたかったんだぁ~」
「……じゃあ先輩……何とも無いんですか?」
「うん!大丈夫だよぉあずにゃん!」
唯はあっけらかんと笑っている。下で見ていた澪とムギも目が点だ。
「じゃあ、あずにゃん!早速復帰祝いのムチュチュ~」
口を蛸のように尖らせて梓に抱きつく。カウンターで梓の平手打ちを食らう唯。
「あ、あれ?」
「……お前が悪い」
律はジトッとした表情で唯を見つめ、むんずと唯の襟をつまむとコックピットから引きずり下ろした。

「えへへぇ~、ただいま~みんな」
頬に紅葉マークをつけた唯はいつも通りだ。
「はぁ……心配するだけ損したよ……でも、何も無くて良かったな」
澪が笑う。
「えへへ~ごめんねぇ」
「唯先輩は緊張感に欠けてます!この状況下でありえないです!」
「まぁまぁ梓ちゃん」
梓もプリプリ怒っていたがどこか嬉しそうだった。なだめる紬にも何時もの笑顔が戻る。

『感動の再開を喜んでもらってるところ悪いんだけど……』
Mk2が輪になって喜び合う彼女達に近付き会話に割ってはいる。。
『1つお願いがあるんだ。君達にしか出来ない事だ』
「何だよ?唯を助けるの手伝ってくれたんだ、出来る事があったら手伝うぜ」
律がMk2に向かってニッと歯を見せる
『君達にもう一度、歌を歌って欲しいんだ』
「歌?」
『それも、全世界に向けてね。我ながら科学者らしからぬ作戦だとは思うけど、僕は君たちの可能性を信じてる』


165 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 21:39:03.85 ID:wpCa8h470

オタコンがMk2経由でスプリガンの起動データを書き換えている間、
メンバーたちは音楽機材とMk2の接続、楽器の移動を行っていた。
オタコンの話によれば唯の歌は普段の声とは性質がやや異なり脳を活性化させる効果があるのだという。
その能力とスプリガン、そして愛国者AIの力があれば、
今世界中で起こっている現象の逆の事が出来るかもしれないと、彼はそう言うのだ。
自分達の歌声で世界が目を覚ます、何ともスケールの大きい話だ。

「ねームギちゃん、本当に上手くいくのかな?」
ギー太を抱いた唯が心配そうな顔でキーボードのセッティングを行っているムギを見つめた。
「不安なの?唯ちゃん」
「う……うん」
唯は足をもじもじさせている。
「大丈夫よ、唯ちゃんは1人じゃない。私達も一緒よ」
「……ありがとう……ムギちゃん」
「これが終わったら皆でお菓子を食べましょう。もちろん、オタコンさんもジョン先生も呼んでね」
「……うん!」
唯はどうやら吹っ切れたようで、力強く頷くとまた機材を運び出した。



167 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 21:44:25.07 ID:wpCa8h470

「ハル兄さん!これ!」
オタコンと一緒にスプリガンのデータをいじっていたサニーがモニターの1つを指差す。
サニーがスプリガン経由で国境無き軍隊の指揮車にハッキングを仕掛けたのだ。
発見した敵のGPS地図によると彼らはこの高校に向かってきており、ご丁寧に月光を1機引き連れている。
後数分もすれば桜が丘高校に到着するだろう。
スネークがこちらへ急いでいるがこのままでは間に合わない。

「サニー、指揮車両の完全な掌握はできそうかい!?」
「だめ……指揮車両には強力なプロテクトがかけられてて覗き見するのがせいいっぱいなの……」
「そうか……いや、まだ手はある」
オタコンは1つウィンドウを開くと指揮車両であるトラックを経由せずスプリガンから直接月光にアクセスを開始する。
指揮車両が破壊されても月光がスプリガンを護衛するよう、この両者にもネットワークが形成されているのだ。
月光のAIモードを指揮車の護衛からスプリガンの護衛に変更し、敵認識項目に指揮車両のコードナンバーを入力する。
指揮車から月光へのAI上書きの時間が約5秒。
その表示はを見たオタコンが口元を緩めた。
「5秒もあれば十分だっ!」
オタコンは迷わず手元のエンターキーを押した。

トラックと並走していた月光がオタコンの発信した信号を受理、敵として認識したトラックのどてっぱらに強烈な蹴りを入れる。
トラックは勢いをつけたまま180度回転してガードレールを突き破り雑居ビルに激突した。
車両は大破し、司令塔としての機能が完全。
主をなくした月光は咆哮を上げるとその場で待機モードに移行した。
「やったぞ!指揮車両は機能を停止した!」
オタコンは額ににじみ出た冷や汗を拭った。
「急ごうサニー!プログラムの修正箇所はまだまだある」
世界有数の天才科学者達は再びキーボードを指先で叩き始めた。



169 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 21:51:06.06 ID:wpCa8h470

演奏の準備が急ピッチで進む。
エフェクターとMk2を繋ぎ各楽器の調整を行う。
唯は開放したままのコックピットに乗り込みヘッドギアをつけた。
勿論、ギー太も一緒だ。

「ほんとにもう一度乗って大丈夫なんでしょうか?」
Mk2でオタコンが作業していると不意に梓に声をかけられた。
『ああ、今までは彼女が眠っていないとシステムは作動出来ないようにプログラムされてたんだけど、
逆に脳が活性化しているときでないと動かないよう、データを書き換えてるところだ』
「あの……そういう事じゃなくて」
『暴走の事かい?そんなことはもうしない。彼女がそんな事を望まないのは君たちが一番良く知ってるはずだ』
「……そう……そうですよね。すいません、変なこと聞いちゃって」
『……あの子はいろんな人に愛されてるんだね。羨ましいな』
「おーい梓!曲目きめるぞー!」
「あ、はーい!」
律に呼ばれ梓はMk2に小さくお辞儀するとそっちの方にトコトコ走っていった。

メンバー全員が揃って何を歌うか相談する。
「全世界に歌が流れるんだからな!ここはババーンとヘビメタ調で!」
「律先輩……そーいうジャンルの曲やったことないでしょ……澪先輩も何か言ってやってください」
「全世界……世界配信……あわわわ……」
澪は律と梓の会話を尻目に1人カタカタ震えていた。
「おいおい、大丈夫かよ……」




173 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 21:56:39.15 ID:wpCa8h470

そんな彼女達を横に唯は自分たちが練習してきたスコア表と睨めっこしていた。
「よし!」
唯は1人大きく頷くと紬が持ってきた洋楽のアレンジスコア集のある1ページを開きメンバーに見せる。
「私これがいい!」

「ほぉ」
「へぇ」
「うん」
「まぁ」
各々が唯の開いたページを見て声を出す。
練習に何度か演奏した曲だ。皆が顔を見合わせ頷く。
曲目は決まった。

各々が指定の位置に立つ。
体育館の側壁を突き破ったメタルギアのコックピットを取り囲むように彼女達は配置された。
何時もと違う立ち位置が少しもどかしい。
梓は2,3回弦を弾き梓がギターの調子を整え、ふとコックピットを見上げた。
唯がヘッドギアをつけギー太を抱いている。えもいえない緊張感が梓の中に広がった。
「梓」
「はっ、はい!」
急に澪に声をかけられ裏返った声で返事してしまう。
「頑張ろうな」
澪が持つピックが少し震えているのを梓は知っていた。そんな状況なのに澪は梓のことを気に掛けてくれる。嬉しかった。
そして、それ以上に彼女や他のメンバーたちに恩返ししたいと言う気持ちで一杯になる。
今出来る自分の最大の恩返しは……考えなくても分かる事だ。
「はい!私精一杯演奏します!」
梓の元気の良い答えに澪は一瞬キョトンとしたが、すぐに笑みを取り戻す。
「ああ、最高の演奏にしよう!」


179 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 22:04:01.58 ID:wpCa8h470

『愛国者へのアクセス及びスプリガンの再起動を開始するよ!用意は良いかい?』
がコード中継をかねているMk2からメンバーに声をかける。
「いつでも来い!やってやらぁ!」
律がスティックを振り上げ合図する。
『10カウントから開始するよ!10、9、8、7』
メンバーがごくりと唾を飲む。
『6、5、4、3、2,1』
スプリガンから起動音がスタートの合図だ。

唯がゆっくりと口をひらく。
「どもー放課後ティータイムです!いやーいきなり世界デビューって事になっちゃってぇ~えへへへへ。
自分でもビックリしてるんだけど、あ!コレ世界に聞こえてるんだよね!
英語じゃないとまずいよね!え、え~と、ハ、ハロー!アイアムジャパニーズ!アイライクお菓子」
「うぉおおい!MCからやるんかい!」
律が突っ込む。
「みんな寝てるとは言え世界にこの痴態は恥ずかしすぎます……」
「ああ……」
澪と梓はガックリ肩を落とした。
唯はえへへと舌を出す。

「つい、何時もの癖で~。ほいじゃ早速いきますよ!準備いい!?」
メンバーの顔つきが変わる。
演奏前のあの心地よい緊張感だ。

「放課後ティータイム!曲はカーペンターズで、SING!!」



184 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 22:13:28.81 ID:wpCa8h470



ミラーは足を引きずりながら桜が丘高校体育館前に着いた。
大破したトラックから1人脱出しやっとの思いでココまでたどり着いたのだ。
肋骨と足の骨がやられているのが分かる。頭部からは血が流れ、時折意識が飛びそうになる。
つい先ほど街の町内放送用スピーカーからコントが聞こえてきた。
敵はスプリガンの乗っ取りに成功し、あまつさえ愛国者にアクセスを開始したのだ。
世界中に今のコントが配信されたと思って間違いはないだろう。

『放課後ティータイム、曲はカーペンターズでSING!!』

スピーカーから聞こえる唯の声。
間違いない、彼女らは唯の歌の性質を利用して眠っている人間を起こす気だ。
「しかし……よりによって……この歌とはな……」
手に持つXM8アサルトライフルをぐっと握る。

キーボードの心地よい前奏の後、次々に音が重なる。
ミラーは体育館の入り口でへたり込んだ。
血を失い、足ももう既に言う事を聞いてくれない。

この歌を止めなければ世界は目を覚まし作戦は失敗してしまう。

『sing, sing a song sing out loud sing out strong
sing of good things, not bad sing of happy, not sad』

唯の歌声だ。優しく、包み込むような声。
ミラーはライフルの銃口を唯に向けた。この歌を止めさせるには彼女を殺すしかない。
愛国者へのAIへはアクセス出来なくなるが、この際仕方が無い。


190 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 22:19:30.14 ID:wpCa8h470

『sing, sing a song make it simple to last your whole life long』
膝を立て銃を固定する。
『don't worry that it's not good enough for anyone else to hear』
ドットサイト内から唯を覗く。
スコープ越しに見るその姿はさながら世界に愛を降りまく天使のようだ。
『just sing, sing a song……』

耳に聞こえるこの曲は40年の時を越えてミラーの心に染み込んでゆく。
ピースウォーカー、いや、ザ・ボスがこの歌を愛したその意味をミラーは感じた。
『la la la la la la la la la la la la』
メンバー全員の歌声が唯の声と交じり合った。
世界が平和であることを望む為に、ミラーは彼女に銃を向ける。

「動くな」
ミラーの後ろで声がする。
見なくても判る。伝説の英雄ソリッドスネークだ。
『sing, sing a song let the world sing along』
照準は合っている。後は引き金を引くだけだった。
『sing of love there could be sing for you and for me』
「スネーク、俺は引き金を引く。そのために俺はここにいるんだ」
ミラーは銃を構えたままそう呟く。まるで自分に言い聞かせるかのように。


194 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 22:25:52.06 ID:wpCa8h470

『sing, sing a song make it simple to last your whole life long』
「マスター、アンタには撃てない。その気があるのなら俺が銃を向けた時、その引き金を引いてたはずだ」

『don't worry that it's not good enough for anyone else to hear』
「これからは、PMCの時代でも、核の時代でも、戦争の時代でも、ましてや俺たちの時代なんかじゃない。
これからは彼女達の時代だ。
俺はこの螺旋から降りる。俺たちが突き付けあった銃を降ろさない限り、彼女たちに未来はやってこない」
後ろで銃をしまう音がする。
戦場で敵に情けをかける。
伝説の英雄もなんてことは無い、感情に身を委ねてしまう愚か者だ。

『just sing, sing a song』

ミラーの握っている手から力が抜け、銃口が下を向いた。
あらゆるしがらみからの開放。ミラーが得た感情はそれに近かった。
リキッドに殺されたあの日、自分は自由になったのだと思っていた。
けれど実際は戦いに身を起き、殺し合いの上になる世界で同じ事をしていたに過ぎない。

『just sing, sing a song』

涙を流したのは何年ぶりだろう。
ミラーはふとそんな事を考える。本当に自由になれた気がした。
通信機を手に取り世界中で戦う仲間たちに回線を開く。
「カズヒラ・ミラーだ。作戦は失敗、現時刻を持って各部隊は撤退を開始しろ。だが、心配するな、時代は変わる。
俺は……そう確信した」



199 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 22:32:36.27 ID:wpCa8h470

『la la la la la la la la la la la,,,,,,,,』

唯が、放課後ティータイムのメンバーと一緒に歌を口ずさむ。
全世界に向けてこの歌を歌っている事を唯は遠に忘れていた。

歌おう、歌を歌おう
生涯を共にできるように やさしい歌にしようね
誰かに聞かせる程上手くない、
なんてそんなことは心配しないで
ただ、歌を歌おうよ

この歌詞の意味を唯は深く考えた事がない。


けれど、優しげなこのメロディーと、幸せな気分にさせてくれる雰囲気が好きだった。
ギターを鳴らし、前のめりに歌う。
これからも、ずっとこのメンバーで歌っていけたらと思いながら。


傍でザ・ボスが笑った気がした。



204 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 22:37:18.65 ID:wpCa8h470



今事件において後に語り継がれる記録は、曖昧なものであり多くの謎を残した。
国境なき軍隊は各作戦地域から撤退し、組織はそのすぐ後に解散、消滅。
各国の見解によれば事件の首謀者であるカズヒラ・ミラーの消息は生死も把握されておらず、
桜が丘高校の体育館の玄関にカズヒラ・ミラーの血液がついたアサルトライフルが1つ残っていたというのが
最後の手掛かりであった。
スプリガンの中にあるG・W識別コードは何者かが感染させたウィルスによって破壊されており、
愛国者と人を繋ぐ唯一の道は失われた。
一説によればこのウィルスの件にソリッド・スネークとハル・エメリッヒが関与しているという不確定な情報があるも、
日本政府はこれを拒否。

事件の最重要参考人である平沢唯と放課後ティータイムの証言はCIAと日本政府のごく一部の人間が知るのみで、
国際連合アンチテロ組織最高司令官に任命されたロイ・キャンベルの情報封鎖が主な原因であると言われている。

密に世界を救った放課後ティータイムはその後、半月にも渡る聞き取り調査と現場検証で
心身ともにクタクタな日々を送る羽目になった。
事件の全容は無論他言無用であり、それを条件に街の復興と生徒たちの心のケアを目的とした医師団と
復興作業班の派遣で彼女達は合意。

英語教師ジョン・コジマはその姿を消し、放課後ティータイムのメンバーは彼が何者だったのか知らされないまま
後に「スリーピングビューティー」と呼ばれる今回の事件は幕を下ろした。



206 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 22:43:01.19 ID:wpCa8h470

エピローグ

事件から3ヵ月後、改装工事が終わったばかりの体育館には生徒や地元住民が溢れかえっていた。
街の復興とそこに住む住人に元気になってもらおうと桜が丘高校と地域の自治体、
それに国連の復興作業班が協力して「復興祭」なる催しを行ったのだ。
学校を取り囲むように屋台が並び、校内でも様々な催し物が行われていた。

「あわわわわ……律、むりだよ……学園祭の比じゃないよ」
舞台袖で澪が目を白黒させている。
「何言ってんだよ澪、お前の歌全世界に発信されたんだぞ?これぐらいの人数で怖がってどーすんだよ」
「あの時は私たちしか居なかったんだ。今は体育館に入りきらないぐらい人が入ってんだぞ」
澪が必死に訴えるもココまで来たら引き返すわけにはいかない。
「澪先輩、大丈夫ですよ。あれだけの事、乗り越えたんですから今回もきっと平気ですって」
梓が澪をなぐさめる。
「ハァ……そうだな……いつまでもこのまんまじゃジョン先生に示しがつかないもんな」
ふと澪が横を見る。
「聞かせてあげたかったね……新しい曲」
ギー太を抱えた唯はいつもより少し元気が無かった。

今回の「復興際」にあわせ彼女達は新しい曲を作ったのだ。
けれど一番聞いてほしかった人はここには居ない。
「唯ちゃん」
唯の肩に紬がそっと手を置く。柔らかくそれでいて暖かい。
「大丈夫よ、きっと届くわ……あの時のようにね」
唯はその言葉を聞くと曇った顔をほころばせた。
「そうだよね……そうだよね!」
目をきらきらさせる唯はいつもの唯だ。
「うん、だから頑張りましょう」
紬がそういうとメンバー全員が頷いた。



209 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 22:47:36.87 ID:wpCa8h470

『それでは桜が丘軽音部、放課後ティータイムのミニライブです』
放送の後、幕がゆっくりと上がる。
今まで経験した事の無い拍手の波が彼女達を包んだ。
唯は用意されたマイクに向かってお辞儀をする。
勿論、おでこをぶつけ観客の笑いを誘うのはいつもの事だ。
「あわわ!ごめんなさい、えっと、放課後ティータイムです」
唯がギー太をジャジャンと鳴らす。
再び沸きあがる拍手。
「えへへへ、みんな今日は来てくれてありがとう。
私たち放課後ティータイムは桜が丘高校でバンド活動を行っています。
体育館も綺麗になってなんだかホッとしています。
3ヶ月前に起こった事は今でも実感が湧きません。
私たちもその場に居合わせてすッごく怖かったけど、未来を変えようと頑張った人達のお陰で
こうやってまたステージに立つことが出来ました」
唯はそう言って頭を下げる。
「今回の事で、テロだとか戦争だとか誰かのせいだとか、そういう事を私はあまり言って欲しくないなって思います。
みんなが未来を良くしようとして、それが誰かとぶつかっちゃって、その……
何ていえばいいのか分からないけど、みんな一生懸命だったんです」
唯は下げた頭を上げる。
彼女なりに何かを訴えようとしているのだ。

「私は歌を歌う事しか出来ません。スポーツも駄目だし、勉強もあんまり得意じゃありません。
お料理も憂が全部やってくれてます。
けど、そんな私にも出来る事があるんだって
それで何かを変えられるんだって……
今私たちが出来るせいいぱいいの事を、放課後ティータイムはしていきたいと思います。
だから……」



211 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 22:51:50.61 ID:wpCa8h470

不意に体育館のドアが開き3つの影が姿を見せる。
「だから……」

白髪に白いひげ。英国紳士のような出で立ちの男。
隣にはメガネをかけ少しウェーブのかかった髪が特徴の如何にも研究者らしい出で立ちの男。
そして青い薔薇の花飾りを頭につけた小さな女の子。

唯は一瞬目を丸くしてメンバーの方を振り返る。
皆小さく頷くと笑みを見せた。

唯は大きく頷くと振り返り腕を突き出し彼らにⅤサインを決めた。
ひまわりのような笑顔が眩しい。
「だから皆さん!私たちの歌を聞いてください!」


世界中のみんなに、この歌が届きますように


「放課後ティータイムで SAY-Peace!!!」


おわり



212 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 2010/06/28(月) 22:53:31.44 ID:6Mf0TD0u0

乙!!!


215 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 22:54:14.46 ID:Zht4fgQF0

良いセンスだ >>1乙!


216 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 22:54:29.60 ID:dZU2qV7oO

乙でした!作るのどれくらいかかったの?


217 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 22:55:10.38 ID:HWAh/TEo0

面白かったぜ!
乙!!


228 : 1[] 2010/06/28(月) 23:09:54.74 ID:wpCa8h470

長々と半日かけてうpしてきましたが自分の妄想を読んで下さった皆様お疲れ様でした。
会社で暇な時にしていた妄想を活字にするのは難しかったです。
製作は何だかんだで半月ちょいかかりました。

ピースウォーカーに感化されて勢いで書きましたがまた何か機会があればまたうpしたいと思います。

規制支援も助かりました。
また似たような感じで妄想して書きたくなったら頑張ります。

ではまたその時まで~ごきげんよう
さようなら~



http://www.nicovideo.jp/watch/nm10583863



260 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 2010/06/29(火) 14:12:20.72 ID:duVpKNHF0

メタルギアとけいおんとか俺得SSじゃねえか

>>1乙!


231 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 2010/06/28(月) 23:18:45.36 ID:TCiA3j21O

久しぶりにPWやろっかな



元スレ:http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1277706737/
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