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2 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 22:58:50.24 ID:AEdZkENfo


いつも通りの、ある日。
いつも通りの事務所。

少しだけ違ったのは。

午前十時になっても
プロデューサーが事務所に来なかったって事。

最初はプロデューサーが寝坊なんて珍しいって
みんな笑ってた。

律子だけはプリプリ怒ってたけど 
みんな、どこか楽観してた。

だけど昼になっても何の連絡も無くて
みんな、おかしいと騒ぎ始めた。


3 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 22:59:47.65 ID:AEdZkENfo


小鳥が何度かアイツの
携帯電話や自宅に電話しても不通のまま。

まさか事故に巻き込まれたんじゃ……。
なんて雪歩が言うもんだから、そこからは大騒ぎ。

事故に巻き込まれた人が居ないか
近辺の警察に確認するも該当無し。

みんな、押し黙って
手掛かりが無いかテレビのニュースを観てた。

不安だけを募らせて
気付けば時刻は午後七時。

アイドルのみんなは帰りなさいと促され
不満を漏らしつつ帰宅した。


4 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:00:59.65 ID:AEdZkENfo


次の日の朝。

プロデューサーは暫く休むらしいと
社長から報告された。

みんな、思い思いにプロデューサーの事を口にする。

ただの休暇にしては急過ぎる、とか。
このまま事務所を辞めてしまうんじゃないか、とか。

私は今まで築き上げてきた
信頼関係を蔑ろにされた気がして。

一方的な事後報告に腹を立て
その日はレッスンすら、ままならなかった。


5 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:01:39.81 ID:AEdZkENfo


更に次の日。


小鳥や社長に有志一同が詰め寄った。

ほとんど全員だったけど。

結果は、知らないの一点張り。

不安が芽を出し始める。

いったい何だって言うのよ。

今すぐ帰って来たら
少しはワガママを控えてあげても良いわよ?

この時は、そんな軽口を叩く余裕もあった。


6 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:02:24.61 ID:AEdZkENfo


プロデューサーが事務所に来なくなってから一週間。


どんよりした空気が事務所に蔓延し
イライラに拍車を掛ける。

やよいにキツく当たってしまう時もあった。

レッスンをサボった事もあった。

その度に、プロデューサーの所為にして。

最後は決まって
早く帰って来なさいよ、ばかっ。で締め括った。


8 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:03:30.38 ID:AEdZkENfo


プロデューサーが事務所を休んで八日目。


社長室から、こちらを手招きする小鳥を見つけた。


伊織「あら、社長は居ないのね?」

小鳥「社長が留守だから、ここを使わせて貰うことにしたの」

伊織「それで何の用?」

小鳥「プロデューサーさんの事、なんだけど……」


9 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:04:42.04 ID:AEdZkENfo


伊織「裏切り者の事なんか今更、興味無いわ?」

小鳥「伊織ちゃんだけには伝えなきゃって思って……」

伊織「聞きたく無い」

小鳥「伊織ちゃん……」

伊織「どうせ事務所を辞めるって事なんでしょ?」

伊織「そりゃ、そうでしょうよ」

伊織「ワガママばかり言うアイドルの世話なんて────」


伊織「私なら願い下げだもの」


10 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:05:50.80 ID:AEdZkENfo


小鳥「プロデューサーさんの休暇に伊織ちゃんの事は関係無いわ」

伊織「はっ。どうだか……」

小鳥「プロデューサーさんは今、ここに居るの……」


差し出されたメモには
どこかの住所と大学病院の名前。

早く会いに行ってあげて。

小鳥はそれだけを言うと、さめざめと泣いた。


11 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:06:36.82 ID:AEdZkENfo


メモを握り締め、事務所を飛び出す。

何なのよ。

おおかたどこかで躓いて
その拍子に骨折でもしたんでしょ?

ドジなんだから全く。

まあ、担当のアイドルとして
握り拳くらい、お見舞いしてあげるわ。

病院に向かうタクシーの中で強がったけど
不安の芽は、どんどん大きくなっていった。


12 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:07:28.96 ID:AEdZkENfo


辿り着いた病院の受付窓口。


説明すら、もどかしくて
足踏みをしてると背中から声を掛けられた。


「あれっ? 君は確か水瀬さんの所の……」


振り返ると、目の前に居たのは
どこか見覚えのある白衣を着た男。

あぁ、いつかの水瀬財閥主催のパーティーで
挨拶に来た、医者Aね。

名前は覚えて無いけど
何かの病気を研究してる、とか言ってたかしら。


13 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:08:19.35 ID:AEdZkENfo


医者「お嬢さんはアイドルをされていたんでしたっけ?」

伊織「え、えぇ。そうなんですの。オホホ」


どこぞの令嬢のような言葉使いが
自らの寒気を誘う。

だいたい、医者Aと
和やかに喋ってる場合じゃないっていうのに。

はっきり言って邪魔よ、医者A。

うちの真みたいに実力行使で黙らせてやろうかしら。


14 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:09:17.88 ID:AEdZkENfo


医者「誰かのお見舞いですか?」

伊織「私が所属してる社員がこちらで入院してると伺いまして~」


語尾を延ばしながら
自分の頬に手を当てがって気付いた。

まるで、あずさの真似してるみたいね。これ。


15 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:10:23.51 ID:AEdZkENfo


医者「社員……あぁ、彼の面会に来られたのですか」

伊織「あら、ご存知なんですか?」

医者「えぇ、私が受け持っている患者さんです」

伊織「うちの者が、ご迷惑をお掛けしてすいません」

医者「いえいえ」

医者「それにしても、お嬢さんの……そうでしたか……」

伊織「……? どうせ、骨折くらい、なんですよ、ね?」


16 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:11:38.43 ID:AEdZkENfo


どうにも歯切れの悪い言い方をされ
普段なら、すらすら出てくるはずの敬語も覚束ない。

胸ぐらに掴み掛かりたくなる衝動を
必死で抑えた。


医者「彼に会う覚悟はありますか?」


不安の芽から、花弁が顔を覗かせた。


恐る恐る頷き
案内されるがまま長い廊下を歩く。

突き当たりまで来たところで
出迎えてくれたのは電子制御されたドア。


17 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:12:42.30 ID:AEdZkENfo


伊織「指紋認証なんて、随分と大仰だこと」

医者「一応、研究所ですからね」

医者「その為のセキュリティと言った所でしょうか」

伊織「いつだったかお会いした時……」

伊織「そんな話をしていらしたわね」

医者「覚えていてくれたんですか。光栄です」

伊織「も、物覚えには自信がありますのよ。おほほ……」

医者「それではお嬢さんの指紋も登録しておきましょうか」

伊織「どうして?」

医者「いつでも僕のラボに入れるように、です」

伊織「別にアナタと一緒なら、入れるんじゃ?」

医者「僕が居ない時に来る事も、あると思いますよ?」

伊織「勝手に入って良いって事かしら?」

医者「そういう事です」


伊織「それは光栄だこと」


18 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:13:26.87 ID:AEdZkENfo


医者「それでは、ここに指を当てて下さい」


指された場所に人差し指を当てる。

少しの間を置いて
ピッと電子音が鳴ると同時にドアが開いた。

薄暗い通路を歩きながら
ガラス戸の部屋を覗き見ると機械ばかり。

病棟というよりは実験棟と言った方が
当てはまる気がした。


19 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:14:43.85 ID:AEdZkENfo


医者「ここが、彼の居る治療室です」


通されたガラス戸の向こうは
またガラス張りの部屋があった。

治療室って言うより、動物園の飼育部屋みたい。

ゆっくりと、ガラスで仕切られた
治療室に近づく。


20 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:17:11.35 ID:AEdZkENfo


まず最初に目に付いたのは
所狭しと配置された様々な機械。

次に、白いシーツが張られたベッド。

その上には薄っぺらい掛け布団。

そして、ショーケースのような檻の中。

ベッドと布団に挟まれた、探し人を見つけた。

私のワガママを困りつつも
いつも聞いてくれた優しいプロデューサー。

まるで、すやすやと眠ってるみたいに。

だらしなく開いた口からヨダレを垂らし
朧気な眼で虚空を見つめていた。


21 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:17:53.57 ID:AEdZkENfo


伊織「なによ、これ……」

伊織「この間まで、ちゃんと働いてたじゃない!」

伊織「アンタ、こんな所で何やってんのよ!」


言い終えるよりも早く
分厚いガラスを力任せに叩く。

ドン。

それなりの音がしたはずなのに
無反応なアイツに腹を立て、もう一発。

ドン。

さっきよりも響いたはずの音は
私の右手に痛みだけを残した。


22 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:18:49.74 ID:AEdZkENfo


焦点の合ってない目、閉まりの悪い口元。

必死に面影を探しても
どこにも元気なプロデューサーの姿は無くて。

目の前には、ただ廃人のような患者が一人。

言葉の変わりに
胃液だけが口から飛び出しそうだった。

変わり果てたアイツの姿は
私の心を打ちのめすには充分過ぎて。

ギリギリのところで
制御した感情が治療室の中を漂った。


23 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:19:48.44 ID:AEdZkENfo


医者「彼は一週間前から、ここで治療をしています」

伊織「一週間前から……?」

医者「突然道端で倒れ、うちに運び込まれてきました」

伊織「そんな……!」

医者「様々な検査の結果、内因性の変性疾患と診断され、ここに」

伊織「治るの……よね……?」

医者「未だ、有効な治療法は見つかってません」


25 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:20:43.79 ID:AEdZkENfo


伊織「それって────」

医者「この病気は脳に影響を与え……」

医者「発症者は異常な言動を取るようになります」


医者「何か心当たりは?」 


異常な言動……。

思い返せば今から丁度、一ヶ月前。
何気なく会話を交わしたあの時。

既にコイツの身体は
病魔に浸食されていたのかも知れない────。


26 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:21:38.67 ID:AEdZkENfo


P「メロンパンとか食べるのか?」


仕事までの待ち時間。
斜め読みしていたファッション雑誌に落ちた影。

顔を上げると、目の前にプロデューサーが居た。

ワンテンポ遅れで
話しかけられていたのが自分だと気付く。


27 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:22:24.06 ID:AEdZkENfo


伊織「メロンパン?」

P「ああ、うん……」

伊織「別に、嫌いじゃないけど……差し入れでもあるの?」

P「あ、いや、そういうわけじゃ無いんだけど……」

伊織「…………?」

P「その……そんな庶民的な物も食べるんだな」


28 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:23:35.57 ID:AEdZkENfo


気まずそうに頭を掻いた
アンタを見上げたまま。

最初の質問の意図を図りかねた私は首を傾げる。

端から見れば、おかしな構図だったに違いない。


伊織「アンタねぇ、いくら私がお嬢様だからって」

伊織「普段食べてる物なんて、みんなと変わらないわよ?」

P「そう、なのか」


29 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:24:32.62 ID:AEdZkENfo


伊織「菓子パンも食べるし、スナック菓子だって好きよ」


ポテチくらいしか食べたこと無いけど……。

みんなと買い食いした
ポテチの味を思い出して思わず生唾を飲み込む。

これじゃまるで、おにぎりを前にした美希みたい。

そんな事を考えてたら事務所に春香が帰ってきた。


30 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:25:24.46 ID:AEdZkENfo


春香「ただいま戻りましたー」

伊織「あら、お帰り春香」

春香「あ、丁度良かった!」

春香「プロデューサーさんに聞きたい事があったんです!」

P「………………」

春香「今、大丈夫ですか?」

P「………………」

春香「あの、プロデューサーさん?」

P「………………」

伊織「ちょっとアンタ、何ボーッとしてるのよ?」

P「えっ…………?」


31 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:26:41.71 ID:AEdZkENfo


伊織「春香が話しかけてるじゃない!」

P「春香……? あ、スマン!」

春香「い、いえ!」

P「本当にスマン! それで、何だっけ?」

春香「いえ……大した事じゃないんですけど……?」

P「あぁ、そうか…………」

春香「お疲れみたいなので、明日にでも、また聞きますね!」

P「あぁ、うん」


32 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:27:43.06 ID:AEdZkENfo


春香「そ、それじゃあ私はこれで帰ります」

P「おぉ、お疲れ様…………」


────この時は気にも止めなかった。


本当に疲れてるんだと思ったし
実際、アイツは多忙だったのだから。


だけど、これは兆しだったのね。


33 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:28:49.98 ID:AEdZkENfo


また、別のある日。


プロデューサーが無断欠勤をした日から
遡って、二週間前って所かしら。


また唐突に切り出された。

P「素昆布食べる?」

伊織「はぁ……?」

P「素昆布は好きじゃないのか?」

伊織「好きとか以前に、まず食べた事が無い……わね」

P「そっか……」


34 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:29:32.58 ID:AEdZkENfo


それからは、ほぼ毎日
ことあるごとに、この食べ物は好きか?

この食べ物を食べたことはあるか? と聞かれ続け。


プロデューサーが事務所に来なくなる一週間前。


私はついにキレた。


伊織「だから、なんでいつも食べ物の話ばかりしてくるのよ!?」


35 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:30:48.00 ID:AEdZkENfo


P「えっ!? あ、いや、すまん……」

伊織「そんなに私の食生活に興味があるの?」

P「いや、そう言うわけじゃ……」

伊織「なんなら、これまで食べてきた物を書き出しましょうか?」

P「そ、そんなに怒らないでくれよ……」

伊織「はあっ………アンタ、最近なんだか変じゃない?」

P「そうかな……へへへ……」


36 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:32:02.98 ID:AEdZkENfo


伊織「…………もう、良いわ。叫んだら喉が渇いた」

P「ミネラルウォーターならあるけど?」

伊織「オレンジジュースが飲みたい」

P「す、すまん! すぐに買って来るよ……」


伊織「まったく……」


伊織「こんなに謝ってばっかりのヤツだったかしら?」


37 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:33:34.83 ID:AEdZkENfo


慌てて事務所から出て行く背中を見ながら
そう呟いたのを覚えてる。

むしろ、いつも私が言う前に
オレンジジュースを用意してくれてた。

まあまあ使えるヤツだと思ってたんだけど。


これも、きっと病気の所為だったのね────。



38 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:34:35.31 ID:AEdZkENfo


過去を振り返り終わった私は
病院の屋上から遠くのビルを眺めていた。

遠くに見える街並は、いつもと何も変わらない。

虚構の様な現実と、日常の境目。

つい数時間前は、あちら側に居たはずなのに
今となっては、あの日常が懐かしい。


笑っちゃうくらいに、残酷な日常。



39 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:35:44.64 ID:AEdZkENfo


それを知ってしまった私はどうすれば良い?


教えなさいよ。


プロデューサー……。


黄昏れる私の後ろから
誰かの手が延びてきてハッと振り返る。

缶コーヒーを二つ持った医者Aが
心配そうな表情で立って居た。


40 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:36:51.27 ID:AEdZkENfo


医者「良かったら、コーヒーどうぞ」

伊織「……あとで戴くわ。それで、アイツはどうなるの?」

医者「彼の呼吸器系は、まだ健全に活動していますが……」

医者 「いくつかの臓器は既に意味をなしてません……」

医者「いずれは、心臓や肺も……」

伊織「……っ!」

医者「どこに行かれる、おつもりですか?」

伊織「今すぐアイツをひっ叩いて起こしてやるのよ!」

医者「ちょっと、まだ話は終わって────」


41 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:38:08.91 ID:AEdZkENfo


……………………………………………………………………………………………………………………………………


伊織「アイツが病気? そんなのやっぱり冗談よ!」


ついこの間までは、ピンピンして笑ってたじゃない!

何一つ、約束も守らずに呆けてんじゃないわよ!

この伊織ちゃんが頬の一つでも叩けば、きっと────


伊織「きっと、目を覚ましてくれるんだから!」


42 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:39:52.94 ID:AEdZkENfo


指紋認証をしながら足踏みをする。

息を整える時間すら惜しみ
飛び込んだガラス張りの治療室。

さっきはアイツしか居なかったのに
驚いた顔をした看護士が居た。

訝しげな視線をくれた看護士に
一瞥して呆けたままのアイツに跨がる。


看護士「ちょっと、あなた!? 何してるの! 」


43 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:41:33.68 ID:AEdZkENfo


伊織「見たら分かるでしょ!」

看護士「患者さんに跨がるなんて止めなさい! 」

伊織「コイツが起きたらすぐに退いてあげるわ !」

看護士「何を言ってるの!」

伊織「私だって、こんな腑抜けに跨がりたくなんか無いわよ!」

看護士「じゃあ、今すぐに患者さんから降りなさい!」


乱暴にベッドから降ろされそうになり
必死にプロデューサーの胸にしがみついた。


44 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:42:39.26 ID:AEdZkENfo


伊織「離して! ビンタの一発でもすればコイツは絶対に起きるの!」

看護士「あなた、自分が何してるか分かってるの!?」

伊織「───っ!? 分かってるわよ!」


伊織「このバカは、私の大切な───」


大切なプロデューサーの胸元からは
沢山のコードが延びていた。

そのコードを辿ると
ベッドの横に置かれた様々な機械へと繋がっている。

45 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:43:39.05 ID:AEdZkENfo



『彼の呼吸器系は、まだ健全に活動していますが……』

『いくつかの臓器は既に意味をなしてません…… 』


高ぶった感情が別方向から掻き乱され、上手く呼吸が出来ない。


胸が。


心が。


安物のベッドみたいにギシギシと音を立てた。


46 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:44:47.69 ID:AEdZkENfo


看護士「酸素マスクをしてないから、マシに見えるかもしれないけど」

看護士「もう、自分の意志では手ですら、ほとんど動かせないのよ……」

伊織「コイツは……私の……」

看護士「それは解ったから、ほら退いて」

伊織「大切な……ぐすっ……」


看護士「彼の命を繋ぐ機器に異常が無いか確かめるから────」


47 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:45:40.75 ID:AEdZkENfo


命を繋ぐ。


その言葉だけがぐるぐると頭の中で渦を巻く。


そっか。


このままどんどん症状が悪化して。


このバカ、死んじゃうんだ。


48 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:46:56.50 ID:AEdZkENfo


医者「────やれやれ……患者さんに随分と乱暴なさったようですね」

看護士「先生……!」

伊織「…………」

看護士「すいません……。私の責任です」

医者「患者に何かあったら、それは医者である僕の責任です」

看護士「……機器に異常は無かった事が不幸中の幸いでした」

伊織「……がい……ます……」

医者「……?」

伊織「お願いします……このバカを…………」


私の涙が、私の邪魔をする。
それでも、恥も捨てて、ただすがった。


49 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:48:15.62 ID:AEdZkENfo


伊織「どうか助けてあげて下さい……っ!」

看護士「あなたは、患者さんの妹さん?」

医者「いや……彼女と彼は、ただの仕事のパートナーだよ」

伊織「っ……………」


そうよ。


確かにアイツから見たら私なんて
大勢いるアイドルの内の一人かも知れない。

だけど……私に取ってアイツは────。


50 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:48:50.30 ID:AEdZkENfo


伊織「たった一人しか居ない、私のプロデューサーなの!」


51 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:49:33.12 ID:AEdZkENfo


伊織「何でもするから、どうか……私の大切な人を助けて……っ!」

医者「…………最善は尽くすつもりです」

伊織「こうやってただ、命を繋ぐ事が最善なの?」

医者「…………」

伊織「この私が何でもするって言ってるのよ?」


伊織「今すぐコイツを起こして!」


子供滲みたワガママだって分かってる。


52 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:50:47.51 ID:AEdZkENfo


私のワガママは誰にも聞き届けて貰えない 。


だって。


私のワガママを聞いてくれる人は
眠ったように呆けてるんだもん。

それでも、誰かに頷いて欲しくて
何度も懇願する。

産まれて初めて下げた頭は
空っぽなんじゃないかと思うほど軽かった。


53 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:52:16.26 ID:AEdZkENfo


ピ。

ピ。

ピ。


一定のリズムで脈打つような
機械音だけが、ガラス張りの治療室のBGM。

メトロノームのような
命のリズムに合わせみっともなく請い願う。

自分の目から見ても
滑稽な光景だと思う。

だけど、何度も何度もお願いした。


54 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:53:18.49 ID:AEdZkENfo


ピ。

ピ。

ピ。

ただ漏れ続ける私の声。

ただ垂れ流される電子音のリズム。

その中に一瞬、かすれた呻き声が
混ざって聞こえ、ハッと顔を上げた。

目の前の医者と看護婦は
お互いを真似しあったように驚いている。

なぜか亜美と真美の顔が
ダブって見え、目を擦った。


55 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:54:02.12 ID:AEdZkENfo


二人の視線の先をゆっくりと辿っていく。




その先にはベッドの上で
アイツが空中を掴まんと手を伸ばしていた。


56 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:55:32.81 ID:AEdZkENfo


伊織「プロデューサー……?」

P「り………い………」

伊織「私よ! 私の声が聞こえるのね!?」

P「お……り……」

伊織「そうっ! 伊織よ! アンタのアイドルの水瀬伊織よ!」

P「い……おり……」

伊織「この寝坊助! いい加減、起きなさい! さっさと帰るわよ!」

P「う……あ……」

伊織「みんな、事務所でアンタを待ってるんだから!」


57 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:57:22.59 ID:AEdZkENfo


精一杯伸ばされたプロデューサーの手を強く握る。

神様ありがとう。

こんな私のワガママを
聞いてくれてありがとう。

また自然に涙が溢れる。

さっきの涙と味は一緒のはずなのに
どこか甘く感じた。

これから、どんどん病状も安定して
いつか治るかもしれない。

淡い希望が溢れてくる。


58 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:58:32.66 ID:AEdZkENfo


とっとと帰って来なさいよ!

私をトップアイドルにするって
約束したじゃないの!

まくし立てるように
ひたすらプロデューサーに声を掛けた。

奇跡って、こんなにもありふれているんだ。

五分前よりも世界が明るく輝いて見える。



だけど…………。


59 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/30 23:59:59.95 ID:AEdZkENfo


獣の喉なりみたいな
このウザったい音は何なの?

プロデューサーの声が聞こえないじゃない。

ヒュゥっと何か吸い込むような
音が聞こえ、獣はカッと目を見開いた。


伊織「プロデュ──────」


私の叫び声は別の誰かの叫び声にかき消された 。


60 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/31 00:01:17.13 ID:GaL5q7Xfo




P「くぎゅうううううううううううううううう !!!!」



最初、それがプロデューサーから発せられた声だとは思わなかった。



初めて聞いたプロデューサーの叫び声は。


酷くて醜くて。


だけど、どこか。


母親におっぱいをねだる赤ん坊の泣き声に似ていた。


61 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/31 00:02:10.12 ID:GaL5q7Xfo


医者「まさかここまで釘宮病が進行していたなんて!」


伊織「釘宮……病……?」


看護婦「危ないから、その人から離れて!」

伊織「えっ───痛っ!?」


右手に激しい痛みを感じて
咄嗟に手を振り払うと床に血が垂れる。

恐る恐る右手を見ると
手の甲に付いた爪痕から血が流れ出ていた。


62 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/31 00:04:36.91 ID:UybuwAd3o


未だ、獣の遠吠えのように叫び続けるプロデューサー。

私は、狼に睨まれた野兎のように
後退りし、ペタンと尻餅を付いた。

足はガクガクと震え、動悸は早くなるばかり。

慌てて左手で傷口を押さえるも
指の隙間から赤黒い血が滲み出す。

傷口はジンジンと痛み、血は止まらない。


だけど何故か流れてる血が
自分のものだとは思えなかった。


63 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2013/10/31 00:05:00.60 ID:tyg3zqA6o

あれ?

64 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/31 00:07:15.20 ID:hmIXJUOio


医者「人を呼んで来てくれ! 鎮静剤の用意も !」

看護婦「はい!」


バタバタと暴れるプロデューサーを
必死に医者が押さえてる。

バタバタと人が入ってきて
私は治療室から追い出された。


いったい何なのよ?


やっとプロデューサーが起きたのに。


あんなに元気に泣いてるのに。




ふふふ……あはは、ははは。


65 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/31 00:08:10.49 ID:hmIXJUOio


どんどん眩しくなる私の世界。

何て綺麗な輝きなのかしら。

遠くから私を呼ぶアイツの声が聞こえた気がする。

早く行ってあげなくちゃ。

だけど、眩しくて、何も見えないの。

もっと大きな声で私を呼んでよ。

白いモヤの中で手を
バタつかせてみると見えない何かが私を邪魔する。


そっか。


檻に閉じ込められた獣は、私だったのね────。


66 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/31 00:09:09.96 ID:hmIXJUOio


……………………………………………………………………………………………………………………………………


気が付くと
カーテンレールで仕切られた天井を見上げていた。

見上げてるって事は、私は今、仰向けで寝てるのね。

徐々に意識がハッキリとしてくると
消毒液の匂いが、やけに鼻をついた。

ぼんやりした頭で何が起こったのか考えてみる 。


67 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/31 00:11:00.30 ID:hmIXJUOio


さっき起こった事は本当に現実だったの?

もしかしたら夢だったんじゃないのかしら?


そうよ。


きっと私は交通事故にでも巻き込まれたのね。

そして今日まで、ずっと意識不明だったに違いない。

ついて無かったわね、私。


そうよ。


今までの事は全て夢だったんだわ。


68 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/31 00:12:04.22 ID:hmIXJUOio


プロデューサーが事務所を休んだのも夢。

プロデューサーが入院したのも夢。

プロデューサーが叫んでたのも夢。

だいたいアイツが獣みたいに叫ぶわけ無いもの 。

アイツは優しくて

人畜無害で

誰も傷つけたりしない ────。


無意識に右手をさすり
私はぎゅっと目をつぶった。


しっかりと巻かれた包帯に滲んだ
赤黒いシミを見ないように。


69 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/31 00:13:09.08 ID:hmIXJUOio


誰か、側に居ないのかしら。

声を出そうとして
自分の置かれてる状況を理解した。

喉はカラカラで
大きな声を出そうとすれば、かすれる。
起き上がろうとすれば頭がズキズキ痛む。

ふて寝でもしてやろうかと考えた時
カーテンがサッと開いた。


70 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/31 00:14:16.43 ID:hmIXJUOio


看護士「良かった。気がついたみたいね?」

伊織「ここ、は……?」

看護士「ここは病室。今、先生を呼んでくるから待ってて」

伊織「あ、その前に、水が欲しいんだけど……」


砂漠で遭難した人じゃ、あるまいし
水……って 。

思わず自分でツッコミを入れる。

看護士は笑いながら
ミネラルウォーターを差し出してくれた。


71 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/31 00:15:38.60 ID:hmIXJUOio


一気に飲むと気分が悪くなるかもしれないから
少しずつ飲んでね?

そんな忠告を残し、部屋から出て行った看護士。

周りに誰も居ないのを確認して
急いでミネラルウォーターをコクコクと飲む。

あまり冷たくないけど
今まで飲んだ水の中で一番美味しく感じた。


72 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/31 00:16:26.64 ID:hmIXJUOio


…………だから遭難者か、っての!


空になったペットボトルを
ベッドに投げ捨てながら忠告を思い出す。



そう言えば、一気に飲んじゃダメだったんだ、と。



一人でボケたりツッコミ入れたりしてたら
病室に医者Aが入ってきた。


74 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/31 00:17:33.77 ID:hmIXJUOio


医者「お嬢さん、ご気分は如何ですか?」

伊織「最悪ね」

医者「それは飲み物のせい? それとも、精神的にですか?」

伊織「両方。だいたい、水は……喉が渇いてたから仕方無いじゃない」

医者「それは、仕方無いですね」

伊織「あら、なかなか話が分かるのね」

医者「患者のワガママを聞くのも医者の仕事ですからね」

伊織「私のワガママは聞いて貰えなかったけど?」


75 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/31 00:18:20.36 ID:hmIXJUOio


医者「ははは。その事なんですが少し、お話しても? 」

伊織「手短にお願い」

医者「残念ですが、彼の症状は末期まで来ています」

伊織「……いきなりパンチが効いてるわね」

医者「包み隠さずが、私の診療方針ですから 」

伊織「まぁ良いわ、続けて?」

医者「まずは彼が、罹ってしまった病気について説明します」

医者「内因性変性疾患、もしくはウィルス過敏性大脳皮膚炎」


76 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/31 00:20:21.84 ID:lzQNPMWxo


医者「俗に言う釘宮病です」

伊織「そもそも、その、釘宮病ってどんな病気なの……?」

医者「釘宮病は、まだ全く解明されていないんですが……」

医者「特定の周波数を聞き続けると発症する……と言われてます」

伊織「音ってこと?」

医者「はい。そして、S型、L型、N型など様々な症例がありますが」

医者「多くは性的嗜好が変化し、幼い少女を好むようになります」


77 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/31 00:21:06.46 ID:lzQNPMWxo


伊織「……ロリコンになっちゃうって事?」

医者「ロリ……まぁそうですね。一部では少年を好む場合もある、と」

伊織「少年って……完全に変態じゃない」

医者「奇異な例としてはメロンパンや素昆布からの発症もあるとか……」

伊織「メロンパンや、素昆布……」

医者「おや?」

伊織「あ、いえ、気にしないで、どうぞ続けて?」

医者「この病気の恐ろしい所は、症状の進行に気付かない所です」


78 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/31 00:22:50.95 ID:lzQNPMWxo


医者「本人すら気付かないまま各臓器の機能が衰えて」

医者「自分の意志では手足も動かせなくなり……」

医者「最終的には、奇声を発します」

医者「先程あなたも聞いたでしょう?」

伊織「くぎゅううう……ってやつ?」

医者「はい、それが末期の症状です」

伊織「もう、どうにも出来ないの……?」

医者「その事なんですが────」


79 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/31 00:24:15.51 ID:lzQNPMWxo


医者「先程、アナタが彼に呼び掛けた時……」

医者「彼の脳波から異常な波形が検知されました」

伊織「アイツが、ああなったのは私の所為……ってこと?」

医者「そうとも言えますが、こうも言い換えれます」


医者「彼はあなたの声に反応したんですよ」


80 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/31 00:25:23.93 ID:lzQNPMWxo


伊織「私の、声……に……?」


医者「彼には、あなたの声が届いていたんです」


届いて、た……?

私の声が?

あんなにも変わり果てた姿になっても。

私の声だけは聞いていてくれたの?

口を開けば、ワガママばかりの私の声を?


81 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/31 00:26:38.16 ID:lzQNPMWxo


いつだって、ワガママを押し付けて。

今日だって。

それでも。

私の声だけには反応してくれるなんて。


なんて────。


伊織「────なんて、バカなのかしら」


こんなバカな私の声だけに律儀に反応するなんて。

大馬鹿もいいところよね。

でも、良かった。

産まれてきて初めて、この声で良かったと思えた。


82 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/31 00:27:37.09 ID:lzQNPMWxo


医者「あなたの声だけに反応する」

医者「ここに、きっと光明があるんじゃないかと」

伊織「解った。私が出来る事ならなんでもするわ」

医者「糸のように細い一縷の希望ですが、可能性はある」

伊織「上等よ! 」


どんな細い糸だって、手繰り寄せてみせる。

その先に、私の思い描く未来があるんだから。


83 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/31 00:28:16.69 ID:lzQNPMWxo


私が居て。

アイツが居て。

みんなが居る。

これまでと変わらない日常。

これからも続いていく幸せな日常。

絶対、そこに戻ってやるんだから。


その為なら、何だってやってやるわよ────。


85 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/31 00:33:24.44 ID:WBoNLpAno


半年後。


律子「────伊織、亜美、あずささん。準備は良い? 」

亜美「モチのロンだよ→」

あずさ「あらあら、私のマイクはドコかしら~ ?」

伊織「あずさ、マイクはステージにセットされ てるわよ?」

律子「もう、しっかりして下さいよ、あずささん」

あずさ「すみませ~ん……」


86 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/31 00:34:04.47 ID:WBoNLpAno


律子「あずささんのフォロー頼むわね、亜美? 」

亜美「まっかせといて~♪」

律子「伊織は、何も考えずに歌う事だけに集中してね?」

伊織「……言われなくても、分かってるわよ」

亜美「もしかして、いおりん緊張してる?」

伊織「ぐっ……き、緊張なんかして無いわよ!」

律子「ほら、茶化さない!」

あずさ「そうよ亜美ちゃん……私達には……」


87 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/31 00:35:18.94 ID:WBoNLpAno


あずさ「いえ、伊織ちゃんには世界の運命が懸かっているんだから」


律子「伊織の声だけが釘宮病の症状を抑えられる……なんて、ね」

伊織「ふん。アイドルの私にはピッタリじゃない」



亜美「にいちゃんも……間に合えば良かったのにね……」



律子「ちょっと、亜美……」

伊織「………………」


88 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/31 00:36:35.48 ID:WBoNLpAno


あずさ「さあ、行きましょう。みんなが待ってますから」

伊織「ええ…………今は、アイツの事なんか関係無い!」

伊織「世界中で苦しむ、人に歌を届ける!」

伊織「それが今、私達のする事よ!」

律子「伊織……強くなったわね……本当に……っ…………」

亜美「おやおや~? これが鬼のメガネにも涙ってやつですかな?」

律子「もうっ、だいたいそれを言うなら────」

あずさ「そ~だ! ア・レ、やりませんか?」


89 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/31 00:37:16.52 ID:WBoNLpAno


亜美「ア・レ? ド・レ?」

伊織「アレ? 別に、やらなくても良いんじゃない?」

律子「やるならやるで、ぱぱっと済ませちゃいなさいよ」

伊織「ちょっと私は、やるなんて言ってな────」

あずさ「さあ、伊織ちゃんも亜美ちゃんも手を出して」

亜美「ほいほいっと」

伊織「………………」

律子「ほら、時間無いわよ?」


90 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/31 00:38:06.85 ID:WBoNLpAno


伊織「あぁ、もう! 仕方無いわね。じゃあ行くわよ?」


伊織「竜宮小町───っ!!」


「「「「お───っ!!」」」」


亜美「んじゃ亜美、先に行ってくんね!」

あずさ「じゃあ私も。ステージで待ってるわね?」

伊織「あっ、えぇ…………」

伊織「…………」


91 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/31 00:39:06.24 ID:WBoNLpAno


律子「まさか、怖じ気づいたの?」

伊織「……うっさい」

律子「あら、やだ怖い」


伊織「いきなり、全世界同時中継なんてバカげてると思わない?」


律子「それこそ、今更な話じゃないかしら?」

伊織「ぐっ……」

律子「伊織は今まで頑張ってきたじゃない。自信持ちなさいよ」


92 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/31 00:40:04.64 ID:WBoNLpAno


伊織「もしかしたら、私の声が病気に効かないかもしれないし……」

律子「臨床試験では、ちゃんと効果が出てたじゃない」

伊織「それは、そうだけど……」

律子「はいはい、ごちゃごちゃ言わず、さっさと歌って来なさい」

伊織「でも…………」


律子「プロデューサーにアンタの想いが届くように歌えば良いの!」


伊織「私の……想い……」


93 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/31 00:40:52.60 ID:WBoNLpAno


律子「いってらっしゃい」



伊織「いって……きます……」



ヨタヨタと歩き出し
自分の足に躓きそうになる。

春香じゃあるまいし
そう考えると、いくらか緊張がほぐれた。

あとで、春香にありがとうって
言わないといけないわね。


94 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/31 00:42:37.05 ID:WBoNLpAno


たくさんのスポットライトに照らされたステージ。

大勢の人の歓声を浴び
亜美とあずさが手を振っている。


私がステージの中央まで行くと
一層、歓声が大きくなった。



ねぇ。

アンタもどこかで見てるのかしら。

どこでも良いから
ちゃんと私のこと、見てなさいよね。


ばかっ。


95 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/31 00:43:38.92 ID:WBoNLpAno


ステージの端に居た亜美が
慌てて、こっちに駆け寄って来た。

何かを伝えたいのか
私の身体を揺すりながら叫び続けてる。

マイクを通さないと
歓声がうるさくて何も聞こえやしないのに。

聞こえない事に気付いたのか
今度は身振り手振りで何かを伝えようとしてる。

様々な方向に手が行き来してるけど
さっぱり分からない。


96 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/31 00:45:23.91 ID:WBoNLpAno


貴音なら「面妖な」って一言で
済ますんじゃないかしら?


亜美は諦めたのか
客席の一カ所をただ黙って指差した。

目を凝らすと、ぼんやりとしたシルエットが
はっきりと輪郭を帯びてくる。




あら?


退院には間に合わないんじゃなかったの?


97 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/31 00:46:49.15 ID:WBoNLpAno


ったく、病人は大人しくしとけば良いのに。

もし、この所為で退院が延びたら承知しないんだから。

とりあえず、これだけは言わせて貰うわ。



伊織「アンタ、こんな所で何やってんのよ!」



私の言葉は、たくさんの声援に掻き消されたけど。

アンタだけには、ちゃんと届いたでしょ?

にひひっ♪

                end.

98 : ◆cjitx1hLjk[saga] 2013/10/31 00:48:01.54 ID:WBoNLpAno


以上で、投下終了です。
ここまでお付き合いして頂き、本当にありがとうござ いました。

この物語はフィクションです。

だけど、みんな気をつけてくれ。
実際に釘宮病を発症してる人は、この日本中で 何万人も居るんだ。

俺 達 の 世 界 に 伊 織 は 居 な い

だから、症状を抑えることなんて不可能なんd くぎゅうううううううううううううううううう う!!!!


99 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage] 2013/10/31 00:49:43.06 ID:X11vsBOc0

酢昆布とメロンパンのチョイスで気づくべきだっtくぎゅううううううううううううううううううううう!!!

100 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage] 2013/10/31 00:50:12.05 ID:79+4tkn+0

乙。 いやぁ、良い話だったnくぎゅううううううううううううううう!!!!!!

102 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2013/10/31 00:50:37.01 ID:mjJ46WBYo

おtくぎゅううううううううううううううううう!!!!


元スレ:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1383141387/
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