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1 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 2011/02/18 02:08:11.14 ID:MTRv5paAO


神の右席、後方のアックア、学園都市に侵入。

目標は、上条当麻の粉砕。

これに対し建宮斎字他、天草式十字凄教数十名が上条当麻を護衛。

後方のアックア、これを容易く退け、上条当麻、天草式十字凄教の構成員をほぼ壊滅させる。

後方のアックア、一日の猶予を言い渡す。

天草式十字凄教、建宮斎字を中心に後方のアックア撃退を誓う。

上条当麻は、病院のベッドの上で黙する。

そして上条当麻は、夢を見る。

2 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga] 2011/02/18 02:19:28.65 ID:MTRv5paAO


黙する上条当麻は夢を見る。

自分と一人の男がただ存在するだけの空間。
男はただそこに居る。ただ立つ。顔は見えない。

否、見ようとしていないだけである。何故ならそこに立てるのは誰か分かっているからだ。

そこに立つは、後方のアックア。目的は、上条当麻の殺害。
ただ静かに立つ男、目的は上条当麻の殺害。

目の前の男は腕を上げた。光る何かを手に持つ。それは鋭利な刃物、ナイフだ。


男は上条当麻に向かい、その光る物をかざし、刺す。
ただ純粋に刺すのみ。単純明解、目的は上条当麻を殺す事。


ここは夢だ、実際死ぬ訳では無い。しかし上条当麻は、恐怖する。その刃物が自らの体に向かっている。

上条当麻は動かない。いや、動けない。動く事が出来ない。

ついに刃物は上条当麻の体に触れ、一気に侵入する。流れるは血液。
男は一度では満足しない、ただ刺す、刺す、刺す。

聞きたくも無い音が上条当麻の耳に聞こえる。ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ。夥しい量の血液。

上条当麻は理解する。この男は自分を殺そうとしていると。

そうして上条当麻は夢の中で意識を失う。夢の中ですら黙するのみとなる。

3 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga] 2011/02/18 02:26:41.33 ID:MTRv5paAO

次に意識がはっきりとした時、上条当麻はまた夢の中に居た。

目の前には一人の男。名は、後方のアックア。彼が持つ物は黒い何か。

男はそれを構え、上条当麻に向ける。

上条当麻は再び恐怖する。動く事は相変わらず出来ない。
構えられたものは、手のひらには収まらない程の拳銃。

それを向けるという事は、対象を亡きものにするという事。向けられるのは、自分。

男の指に力が入る。意味する事は、死。
ぐっと力が込められその弾丸は上条当麻の肩に埋まる。
再び流れる血液。おそらく同じような夢、見たくない夢。

再び男は引き金に力を入れ、撃つ。足、腕、腹に当たる。頬を掠めるものもあった。

無事なのは頭、心臓のみ。まだ生きているのが不思議である。しかし何も不思議は無い、これは夢なのだから。

そして放たれた、頭を狙う弾丸、次いで心臓。そうして上条当麻は再び意識を失う。

4 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga] 2011/02/18 02:33:03.90 ID:MTRv5paAO


上条当麻は再度夢に戻る。

目の前にはやはり、男が一人。
距離は一メートル程、一歩進めばすぐに触れる事が出来る。

逃げるべきなのだが、上条当麻は動く事は無い。
男は一歩足を進める。そして手を、首にかける。

何を意味するかは理解している。このまま絞めてしまう、ただそれだけだ。
すると待っているのは、死。どうしようも無い結末。

仮に動けたとしても動く事は無いだろう。動くという意志が無いのだから。

男が手に力を入れる。力を入れた手は、上条当麻の首を絞め、彼を死へと追いやる。

苦しい、かどうかは分からない。何故ならこれは夢だからだ。
体の力が抜けている。抜けていく。これが死なのだろうか。

そうして上条当麻は、またもや意識を失う。

5 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga] 2011/02/18 02:41:37.81 ID:MTRv5paAO


「はあっ……はあっ……」

目を覚ました。どうやら今度は夢では無いらしい。体が動く。自らの思いのままに。

しかし、動かす度に痛みが起きる。無理も無い、彼の体は既に傷だらけなのだから。
常人が見ても何故そうなったかは分からないだろう。
この傷は、今まで彼が救って来た者の為に受けた傷。
そして殆ど意志を交わした事も無いような者達を殴り続け出来た傷だ。

だが今回の傷は、自分が狙われて受けた傷だ。
これは今までとは大きく異なるもの。今まで受けた事の無い傷。

実際彼がその日受けたダメージは普通の人ならば死んでも何もおかしくは無い。
その傷を受けても彼は生きている。

今自分が居るのはベッドの上、おそらくいつもの病院でありいつもの病室だろう。
さらに完璧な処置が施されている、と言っていいだろう。

そうして上条当麻は思案する。

6 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga] 2011/02/18 02:52:09.22 ID:MTRv5paAO


(あいつ……後方のアックアの狙いは、俺自身。インデックスでも五和でも関係ない人でも無く、俺。
 そして俺は……負けた。負けたなんてもんじゃない。完敗だ。
 なのに俺は、生きているのか)


彼は思い出す。自らの体に襲いかかった衝撃。
少し間違えれば待っていたのは、死。

その事実は重く彼にのし掛かる。勝負をしたのでは無い。ただ、殺されかけただけだ。
負けたという言葉を使うのも烏滸がましい。


今まではただがむしゃらに目の前の人を救う為に立ち上がって来た。だが今回は違う。
自らを守る為に立ち上がらなければならないのだ。

今までにそれは経験して来たのだろうか。自分の命を守る為に死ぬ気で立ち向かうという事。

その経験が、無い。

人の為に立ち上がる事と自分の為に立ち上がる事。
端から見れば何も相違ない事。しかし本人の内面においてはこれ程違うものは無い。

そうして上条当麻はさらに思考を続ける。

7 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga] 2011/02/18 03:02:26.60 ID:MTRv5paAO


自分に向けられたものは、単純な行為。
暴行という優しいものではなく、抹消、排除、殺害と呼ばれるもの。

自分に殺意や敵意が向けられた事は何度もあった。
しかし今回は、自分が目標なのだ。
この違い、これこそが上条当麻を恐怖させる。

今まで立てなくなる事は何度もあった。
その分だけ立ち向かったという事だ。
科学において最強と呼ばれる者、魔術を使いこなす者、大多数の敵、と挙げてもキリが無い程。

その立ち上がる理由全てに共通する項目がある。
それは何度も繰り返しているが、誰かの為という事だ。

自分が立ち上がらないと、目の前の者は泣いてしまう。最悪は、死を迎える。
それを上条当麻という男は許さない。
それを許す位ならば、傷だらけでも立ち上がる事を選ぶ。
それこそが上条当麻自身を支えるものであった。

しかし、何度も繰り返す通り今回は異なる。

8 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/18 03:13:12.08 ID:MTRv5paAO


上条当麻という男は一人ではない。
少なくとも二人は存在する。もしくは存在していた、という方が正しいのかもしれない。

一人は記憶を失う前の上条当麻。その「自分」は、一人の少女を守る為にその記憶を代償とした、らしい。

今の自分はこれに関して覚えが無い。しかしその「自分」は立派だと思う。
これは自画自賛ではない。彼は少女を救う為に自らの命を犠牲にしたのだ。
これが一人。
もう一人は、今の上条当麻である。
昔の上条当麻が行った事を信じ、ただ目の前の人を救う。
幾人かは彼を「ヒーロー」と呼ぶ。
自らの危険を省みず、ただ誰かの為に立ち上がる。正しく「ヒーロー」と呼ぶに相応しい。
しかし彼はそれを模倣と思う節がある。
模倣する事によって、彼はまた守っている。以前の上条当麻を。

彼が立ち上がる理由、それは目の前の誰かの為だけでは無い。「自分」を護る為でもあった。

10 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/18 03:22:44.07 ID:MTRv5paAO


この以前の上条当麻と、「自分」を守る上条当麻。少なくともこの二人が存在する。

しかし、上の二人はこの話の主人公ではない。
今回の主人公は、三人目の上条当麻だ。

三人目の特徴は、強くないという事。
ただひたすらに弱い人間。
そこら辺に居る、「ヒーロー」とはかけ離れた存在。それが三人目の自分だ。

その自分は、今起きようとしている。
起きるという事、つまりは今まで眠っていたという事になる。
彼が今まで眠っていた理由、それは麻痺だ。
寒さにより手が痺れ感覚が一時的に無くなる麻痺、それである。

では麻痺とは何か。それは先程述べた上条当麻という人間が深く関わって来る。

11 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/18 03:34:34.11 ID:MTRv5paAO


以前の上条当麻、「ヒーロー」である上条当麻。この二人は三人目を麻痺させていた。
麻痺とは感覚が無くなる事。

ここで言う感覚とは、死への恐怖。

自分は人の為なら例え何が起きても立ち上がる。自らの事など全く関係ない。
諄いようだが、ただ目の前に居る者を救うという「ヒーロー」という側面。
これこそが死への恐怖を鈍らせる。

有名な話だが、激しい運動、スポーツをしている最中に苦しいと思っていたのに急に楽しくなる事がある。
苦痛を取り除く脳内麻薬と呼ばれるもの。

正しく「ヒーロー」はそれだ。
自らが立ち上がるという行為を絶対と信じ、死への恐怖を忘れる。
快楽とは異なるかもしれないが、目の前の誰かが笑ってくれる。
この瞬間、彼は「ああ、良かったな」と僅かでも思う。その一瞬の達成感を求め、上条当麻は立ち上がる。
偽善者と呼ぶ者が居るかもしれないがそれは間違いでは無い。

これに関しては端的に述べる。「ヒーロー」とは「偽善者」に近いのだ。
上条当麻を偽善者と呼ぶのは、的外れでは無い。


先に言っておくが、これは上条当麻を礼讃する為の文章ではなく、ましてや陥れる文章でも無い。

12 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/18 03:48:12.01 ID:MTRv5paAO


もう一度述べるが、上条当麻の「ヒーロー」性は「死への恐怖」を麻痺させる。

しかし麻痺とは一生その状態が続く訳ではない。
先程の脳内麻薬の話であれば、それが切れた時の言い表せない程の疲労感。


つまりは麻痺は一時的なものであり、苦痛というもの自身は蓄積されている。

運動ならば苦痛が蓄積するのは体そのものであり、目に見え非常に分かりやすい。

では上条当麻という男の場合、「死への恐怖」はどこに蓄積されているのか。
その場所は、第三の上条当麻である。

これも先に述べておくが、もしかしたらこの三人目は存在しないのかもしれない。
とするとこの文章は、全く意味の無い者になる。
それは理想的といえるかもしれない。。
もしこの文章に意味が無いと仮定すれば、上条当麻は死に恐怖しない人間と言う事になる。

もちろんこの考えは間違っていると言っていい。「ヒーロー」の上条当麻も恐怖はするのだから。


しかしこの文章で述べる三人目は、もっと人間らしく死に恐怖する上条当麻である。

13 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/18 04:00:29.90 ID:MTRv5paAO


三人目の上条当麻の話を再び始める。

三人目の特徴は、二人目が知らずの内に蓄積させて来た「死への恐怖」を、一身に受けているという事。
知らず知らずの内にため込んだストレスと言っても良いだろう。

そのストレスは今まで見える事は無かった。
それは二人目が無意識に押し隠していたもの。

誰かを助ける事が自らの存在意義と無意識に定義づけた事。
言い換えると「ヒーロー」性が、三人目を抑圧していた。

「死への恐怖」を実感していなかったのでは無く、後回しさせられていただけ。
そのしわ寄せは、抑圧された三人目へ。

先程眠っていたと言ったが、それは抑圧され押し黙っていたと言い換えられる。


そしてこの三人目は、目を醒まそうとしている。

彼の目を醒ますモノ、それは、上条当麻自身が狙われるという事実。

16 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/18 04:21:18.41 ID:MTRv5paAO


再び話は逸れるが、二人目に罪は無い。

二人目がして来た「ヒーロー」とは胸の内に感じ取ったものを行動に起こしているだけだ。

綺麗事ではあるが記憶が無くなって別人となっても、魂が変わる訳ではない。
魂とは非科学的ではあるが、無意識と置き換えても強ち間違いでは無い。


二人目は無意識に感じた事を行動に起こす。
感じた事とは自らを省みず誰かを助ける事。
一人目は少女を自らを犠牲にして助けた。

その二つの事実は二人目を「ヒーロー」に変える。
二人目の「ヒーロー」性は、一人目である以前の上条当麻を守る為だ。

同時に病室で初めてあった少女を何があっても守るという行為。
この行為も、一人目の犠牲を無駄にしない為と言える。
もっともその考えも、内から生まれた「ヒーロー」性によって無意識となってしまうのだが。

17 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/18 04:30:52.25 ID:MTRv5paAO


改めて考える。

上条当麻は今まで直接的に命を狙われた事は無い。
実際見知らぬ脅威に対した時、彼は命を狙われる。
それは再三述べたように誰かの為だ。

しかもいつもは倒れても立ち上がる事が出来、その右手で脅威を文字通りぶち壊して来た。

それが今回はどうだろうか。完全なる敗北。
生かされていると言って間違い無い状況。
圧倒的な戦力差の上に情けまで掛けられた。


これが何を意味するかというと、今回の敵、つまり後方のアックアは


「自分を余裕を持って殺す事が出来た」


上条当麻はこの考えに行き着く。そして表題の通り



「上条当麻は初めて死に恐怖する」

18 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/18 04:47:11.75 ID:MTRv5paAO


(俺は死んでいた……? 何も出来ずに死んでいた……)


まず感じたのは、焦燥感。
自分が何も出来ない程の敵に相対したという焦り。


(建宮や五和や天草式が助けてくれたにも関わらず……俺は何も出来なかった。
 俺のこの右腕ではどうにも出来ない事……)


次に感じるは虚無感。
右腕に寄せていたある程度の、もしくは絶対的な信頼はいとも簡単に崩される。


(俺のために多くの人が負傷した……。 それなのにこの怪我……)


押し寄せるは言い表せない悲しみ。
悲壮感に近いかもしれない。
護衛が居たにも関わらず、守られるべき自分もこの様。

そして行き着いてしまう。


「このままだと……死ぬのか……」


気付くと手に水滴が落ちている。
一滴、二滴、とめどない滴。
上条当麻は涙する。そして呼応するかのように体は震える。


「……っ……っ……ぅああああああ!!!!」


嗚咽の後、上条当麻は哮る。


上条当麻は何かを感じた。それこそが三人目の目覚めである。

23 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/18 20:25:40.64 ID:MTRv5paAO


誤解の無いように言っておくが、哮るとは荒々しい獣がする様な叫びの事だ。

上条当麻はただ単に追い詰められて叫んだのでは無い。
抑圧していた、またはされていた自分を認めたく無かった。
それを認めぬが為の叫びである。

だがそれでも醒めた者はすぐには隠れない。三人目の自分が上条当麻を蝕みだす。

蝕みは涙、嗚咽という形で如実に現れ、もはや否定は出来ない。
認めたく無いモノを否定出来ないという矛盾。
上条当麻はやはり蝕まれている。
その勢いは、凄まじいの一言に尽きる。


そうそう簡単に人間とは変わるモノなのだろうか。
それに関しては否、と言う事が出来るのだが今は違う。

上条当麻を侵しているのは上条当麻である。
自分を知り尽くした他人程脅威なものは無い。
その他人は容赦なく暴力的に自分を蹂躙する。

上条当麻の涙は止まらない、これも一つの証拠だ。

24 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/18 20:42:02.35 ID:MTRv5paAO


「……っ……ひっ……っ……」


理由が定かではない涙が止まらない。
何故手が濡れていくか上条当麻は理解出来ない。

しかしそれもまた嘘だ。上条当麻は理解している。
この涙の理由を、嗚咽の理由を。

認める訳にはいかない理由。
いっそ認めてしまった方が楽なのでは、とも一瞬頭にちらつくが、即座に否定される。

否定する一方、侵攻は続く。広がる蝕み。

上条当麻は涙する。誰が為に彼は涙を流すのか。

それすらも考えてはいけない。上条当麻に出来る事は、この涙を見つめるのみ。

白を基調とする病室に響くのは、少年の嗚咽。



もう、認めてもいいだろう。端から見れば誰しもが解る答えだ。
ましてや、自分の事だ。


上条当麻は明らかに死というモノに対し恐怖心を抱いている。

25 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/18 22:20:16.73 ID:MTRv5paAO


しかし上条当麻は認めない。
その恐怖を受け入れてしまえば取り返しのつかない事になる。
だから断固として認めない。


既に無意識の中で恐れているという事実があるにも関わらず、上条当麻は無駄な抵抗を続ける。

首の皮一枚、まさにそれ位の状況で上条当麻は恐怖を無視する。

頭では否定しつつも、身体は素直に恐怖を受容する。
いや、身体ももう限界だったのかもしれない。
度重なる苦痛、増える傷、幾度と無く流した血液。
身体は常にSOSを発信していた、それを上条当麻は無視し続けた。

ところが、偶然にもこのメッセージは別の上条当麻が素直に受け入れてくれた。
これほど幸せな事は無い。
自分の体の危機を自分自身が認めてくれたのだから。


今流す涙は、皮肉にも身体にとっては歓喜の涙となり、さらに精神に追い討ちをかける。


そうして上条当麻は涙を流し続ける。

26 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/18 22:49:03.47 ID:MTRv5paAO


先程から上条当麻の視線は天井を見つめているだけだった。
つまりは寝たままの体勢で思案し、否定を繰り返していた。

そのためか、上条当麻はある異変に気づかない。
最もそんな異変など気づくような余裕は無かったのだが。


その異変とは、体の一部に重みを感じるという事。
その部分に、布団ごしのぬくもりを感じるという事。

異変の原因は視線を動かすとすぐに解った。


「…………すー……」

「……インデックス、見舞いに来てくれていたのか」


先程から何度か登場した少女と呼ばれる誰か。
その単語は寝ているこの少女――インデックスの事を指す。

一人目が自らを犠牲にして救い出した少女。
すやすやと寝息をたて気持ち良さそうに眠る。
その姿を見ると、あれだけ止まらなかった涙が勢いを失う。
不思議なものだが理解も出来る。

この少女は上条当麻を構成する要因の一つなのだから。

27 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/18 23:11:10.96 ID:MTRv5paAO


上条当麻は上条当麻自身を守っている。

先程述べたように二人目は一人目から無意識に受け継いだ「ヒーロー」性を守る。

これは記憶を失う以前の上条当麻という存在を無くさない為にとも述べた。

また、一人目が最後に残したインデックスという存在。
それを守るのも上条当麻という存在を繋ぎとめる事に繋がる。

インデックスを守る事は上条当麻を守る事。

しかし、ここで考えておきたいのは、インデックスは一人目が居なくなった事を知らないという事。
その理由自体はもはや語る必要も無い。

何が言いたいかというと、インデックスは一人目がまだこの世に存在すると信じている。

彼女の中で上条当麻は消えては居ない。
これ程一人目にとって幸せな事は無いだろう。
記憶を失う以前の上条当麻は、インデックスの中では今も生き続けている。

つまり、インデックスは一人目の上条当麻をはっきりと存在させている。
インデックスが認識し続ける限り一人目は生きる。

この世と一人目の繋がり。それはインデックスが生き続ける限り失われる事は無い。

上条当麻がインデックスを一方的に守っているのではない。
相互に守りあい、存在させる要因。

「上条当麻」に

28 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/18 23:27:43.71 ID:MTRv5paAO


上条当麻はインデックスを見つめる。
ただ、眠る少女を見つめるのみ。

ふと気付くと嗚咽が止まらなかった体は落ち着き、いつの間にか涙も止まる。
悩める子羊を導くシスターというのは、もしかしたらこういう事を言うのかもしれない。

おもむろに手を伸ばし、特徴的な銀髪に触れる。
触り心地のいい髪質につられ頭を撫でる。

実感する、自分自身の存在意義、何故今まで立ち上がって来たか。
その全てが少女のためだけとは言えないが、少女の為に傷を負った事も事実だ。


上条当麻に少しずつ生気が宿っていく。内から溢れる力。
先程の自分とは全く違う自分がそこに居た。


「まだ、死ぬ訳にはいかないよな」


上条当麻は蘇った。いつものように立ち上がった。
この感覚は忘れる事は無い。今まで立ち上がって来た時に感じてきた不思議な力。

二人目の復活。ヒーローの帰還。最早物語の結末は見えた。
何度でも立ち上がり、ボロボロの体で掴み取るいつもの勝利。




しかし、忘れ無いで欲しい。
この文章の主人公は三人目の上条当麻だという事を。

30 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/19 12:54:36.39 ID://yqD1bAO


後方のアックアは上条当麻の粉砕の為に学園都市に侵入した。
それにしては上条当麻の周りが静かすぎる。
そして護衛であるはずの天草式の面々も見えない。
もしや両者は既に戦闘を開始しているのでは、という推測は自然と立つ。


繰り返すが、今の上条当麻はいつもの上条当麻に戻っているように見える。
だとすれば、こうして寝てる場合では無い。
誰かが傷ついているかもしれない状況を、見過ごす事など出来る筈もない。
しかもそれが自分を守る為の戦いであれば尚更だ。
自分の為に誰かが犠牲になるなど、「絶対に」あってはならない。
一刻も早く自分も合流し、戦いに加わらなければ。


ボロボロの身体。
歩けるかどうかもわからない状態であるのにも関わらず、上条当麻は体に力を込める。

痛み。少し体を動かすだけで身体が悲鳴を上げる。
体を起こそうとすれば首、肩、腹、背中がそれぞれ限界を訴え、手をついて支えようとすれば腕がそれを拒否する。

起き上がろうとしただけでこの惨状、歩く事すら叶うかどうか。
ましてや戦う事など不可能だ。
運良く辿り着いたとしても邪魔なだけである。ただの足手まといだ。
むしろその足手まといを守る為の戦いなのだから質が悪い。


しかし上条当麻はそんな考えは持たない。
実際戦えば何とかなるだろう、という確固たる根拠の無い自信。
その自信があるからこそヒーローは立ち上がる。
足が床に触れるだけで痛みを感じる。
その足に体重を掛ければその痛みは想像を超える。
そうして上条当麻は銀髪の少女を一目見る。覚悟を行動に換え、上条当麻は歩き出す。



この時の上条当麻の思考に、誰と戦うか、という事は一切含まれていない。

31 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/19 13:18:04.57 ID://yqD1bAO


病院を抜け出し、上条当麻は歩く。
その歩くという行為は目的地まで自分を運ぶ、という本来の目的に加え、
痛みを生み出すという余計なモノまで含んでいる。

しかしその余計なモノは、上条当麻の身体にとっては救いを求める叫び。
身体の限界、これ以上の酷使だけは控えて欲しいという現実的な身体からの意見。

これを上条当麻は無視する。
それでも身体はその危険性を上条当麻に訴える。
精神と身体は分離し、上条当麻は精神に味方する。

だが、身体は実は孤立無援ではない。
身体の訴えに共感する「誰か」の存在。
既に述べているようにその「誰か」は既に目を醒ましている。

「誰か」という他人のような呼び方は失礼だ。
三人目の上条当麻は身体の辛さをそのまま受け取り、理解する。

三人目はその身体とのやり取りを引き受けて来た。上条当麻の知らない所で。


上条当麻は何も知らずゆっくりと歩き進む。
いつまで無視するのだろうか、そうして三人目は行動を起こす。

見えない行動、上条当麻の意識に三人目は干渉する。

32 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/19 13:43:17.78 ID://yqD1bAO


三人目は上条当麻の無意識に侵入する。

少しずつ意識を蝕み、先程気づきかけた感情を再び呼び起こそうとする。
徐々に、静かに、確実に上条当麻の無意識に自らの感情を共感させようとする。


上条当麻は歩く。上条当麻は拒否する。
上条当麻は動く。上条当麻は求める。

見えない攻防、無意識においてのせめぎ合い。
埒のあかない見えざる戦い。
このまままたいつものように上条当麻は戦ってしまうのか。
またいつものように誰かを救う為に戦うのだろうか。
そしていつものように勝利する事は出来るのだろうか。

上条当麻はそれを疑わない。
勝つことしか頭に無い、とは言い過ぎかもしれないがそれに近いモノを上条当麻は無意識の内に感じている。
果たしてまた、いつものように勝てるのだろうか。



相手は、後方のアックアだというのに。



三人目は上条当麻への侵入に成功した。

33 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/19 13:58:12.55 ID://yqD1bAO


その事実こそ、上条当麻が絶対に気付いてはいけない一つの真実だった。

後方のアックアという男は、上条当麻を死へ追いやる。
次元の違う強さ、その強さをもってその男は上条当麻を粉砕する。
こちらが思っている以上にあっさりとその男は勝利するだろう。
歩くだけでもこの様、これ以上の体の酷使ですらギリギリなのだ。
また再びこの体にあれ程のダメージを受けてしまったら――。


「ヒーロー」が考えてはいけない真実。
絶対に勝てない相手をしなければならないという事実。

いつもならそれでも何とかなると思えるのだが、今は何故かそう思う事が、出来ない。
「ヒーロー」に起きた異変、それこそが三人目の狙い。

攻防の中、歩みを進める上条当麻。
しかし相手はあの男。向かうのはその男と対峙する戦場。

それでも上条当麻は歩く、涙を流しながら。

恐怖は再び上条当麻を蝕み出す。

34 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga] 2011/02/19 14:13:44.17 ID://yqD1bAO


足が一歩、涙が一滴、上条当麻の勇気、上条当麻の恐怖。
相反する両者が混在する結果、上条当麻は涙しながら歩く。

何故涙を流すのか。それは恐いからだ。
何が恐ろしいのか。それは――上条当麻は歩く。

相変わらず聞く耳を持たないヒーロー。
ここまで来てまだ無視するのか。
まだ「自分」を拒否するのか。まだ自分を否定するのか。

上条当麻は歩く。何も考えずにただ歩く。
涙を流す理由、それを考えてはいけない。
先程一度でも考えてしまった事を後悔しながら上条当麻は戦場へ向かう。
ボロボロの体を引きずった男が涙を流しながらゆっくりと歩く。
尋常ではない光景、不可解な行動。

いや、もはや戦う為に歩いているのでは無い。
上条当麻は否定する為に歩いている。
否定しなければ自分が自分でなくなってしまう。


上条当麻は死への恐怖を無意識に否定する

35 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/19 14:24:23.22 ID://yqD1bAO


朝起きて、二階の部屋を抜け出し家族の待つリビングへ向かう。
父親と母親と兄弟が待つ空間。


時間を気にしながら朝食をとり、学校へと向かう。
通学路の途中、友人に声を掛けられ談笑しているといつの間にか到着。

教室に入り別の友人に挨拶をし教師が来るまでくだらない会話をする。
授業を眠い目を擦りながらなんとか耐え、昼食の時を友人と一緒に楽しく過ごす。

放課後、部活動に励む人、ゲームセンターの連勝記録を伸ばす声に熱中する人、アルバイトをして資金を貯める人。

その後自宅へと戻りまた家族と一緒に夕食をとる。
部屋に戻り宿題、ゲーム、読書等、自分の時間を過ごす。
疲れた所で就寝、明日を迎える。
そうして目が覚め再び似たような日を楽しく過ごす。


この状況で、もし自分が死ぬ事や自分自身を失う事など考えるだろうか。


閑話休題。

36 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/19 14:42:23.23 ID://yqD1bAO


閑話休題、上条当麻は歩き続ける。
無意識の内に否定をし、涙を流しながらただ歩く。

否定するものとは、死への恐怖。
これを認めてしまうと、全てが鈍る。
今まで鈍感に接して来た自分の受けた苦痛、恐怖。
その鈍感性が鈍る事だけは避けなければならない。
受け入れてしまえばおそらく二度と、「ヒーロー」へと変わる事は出来ないだろう。

上条当麻はそれを本能で察知している。
だからこそ否定する。
自分が自分である為の自己の否定。
矛盾したこの状況こそが今までの上条当麻だった。

しかし、三人目はついに活発に動き出した。
今までの鬱憤を晴らすかのように容赦なく上条当麻を蝕む。
それでも上条当麻は歩く。ただひたすらに。

まだ上条当麻は自覚しない、三人目の自分を。
二人目は許さない、三人目の存在を。


「ヒーロー」がこの状況で必ず避けなければいけない事が一つだけある。
それは、三人目を理解してくれようとする「上条当麻」以外の他者。
この他者が理解してしまうと、上条当麻は三人目を自覚してしまう。
この存在だけはどうしても避けなければならない、絶対に。


そして上条当麻は、三人目を理解する事が出来る一人の少女と出会う。

38 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/20 10:08:24.63 ID:qM+XF20AO


繰り返すようだが上条当麻は今、見た目からして普通ではない。
着ている服は病人用の手術衣のようなもの、頬や腕には電極のついたテープ。
傷だらけの体、涙で濡れる顔、真っすぐに歩く事もおぼつかない。

はっきり言う、異常だ。変質者と思われるかもしれない。
深夜だから良かったものの、誰かに見つかれば即搬送された事だろう。
それでも上条当麻は歩く、自分を守る為に戦う誰かの為。
そして自らの存在を揺るがせない為。

しかし、やはりどこかから生まれる恐怖という感情があるのもまた事実だ。
上条当麻は肯定と否定を繰り返す。
足どりは非常に重い。今から立ち向かう相手は、自分を殺す。
処刑台へと向かう罪人、その特殊な状況下における人間の心理。
今の上条当麻なら理解が出来るかもしれない。

その現実を真っ向から否定、否定の否定、堂々巡り。
今彼を支えるモノは、街灯の柱などの感情を持たない物のみ。
上条当麻はただ一人で歩く。

三人目は求める。勇気ある停止を上条当麻はすべきだと。
もうやめろ、待つのは死のみだ、十分やった、誰も責める事は無い。
わかっている、全て理解出来る。しかし、理解などしたくない。
三人目は理解されない。誰も分かってくれない。
上条当麻という存在すら自分を理解してくれない。

絶望、自分が自分を認めない。やはり孤立無援、辛い戦い。
救われたいが為に救いを求めて叫ぶ。しかし届かない。
三人目は思う。誰も自分を助けてくれないのだと。
確かに今、上条当麻の目の前に三人目を、そして「上条当麻」を助ける事が出来る者は居ない。


だが存在しない訳ではない。
この世には、彼を助ける事が出来る人間が三人居る。
彼を真の意味で理解する事が出来るかもしれない者、その存在は目の前には――。


「ちょ、アンタ何やってんのよ!?」


このタイミングに、何故か目の前に現れたその内の一人。
奇跡であり誤算である。三人目はこの遭遇に感謝している事だろう。


「御坂、か……?」

39 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/20 10:31:32.84 ID:qM+XF20AO


上条当麻にとって御坂美琴という人物はどういう存在であるか。
端的に言ってしまえば、「仲間」という言葉につきるだろう。
自分が困った事や知らない事があれば助力を求める。
逆に相手が困っていれば命を賭して「ヒーロー」となる。

だが、信頼はしていても甘えはしない。
仲間と言っても、心を通わすレベルの間柄では無い。男女の関係でも無い。

上条当麻は思う。
御坂美琴という人物の性格上、こんな姿を見たら救いの手を差し伸べるだろう。
だが今から向かう戦場にこの少女を連れて行く事は出来ない。
それを言っても彼女は納得しないかもしれない。
その場合彼女は行く事自体を止めるだろう。

上条当麻はまだ気付かない。相手が何を知っているかを自分は知らない。
三人目はこの時点では、自分を止めてくれるかもしれない人物との遭遇に喜んだ事だろう。
しかし、すぐにその喜びを打ち消す。
簡単な事だった。
少しでも歓喜した自分が愚かだった。
一つの事実。単純でいて複雑。



上条当麻の中の御坂美琴は上条当麻を止める事など出来ない。

40 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/20 10:56:51.67 ID:qM+XF20AO


こんな少女が自分を止める事が出来る訳が無い。
いくらヒーローと三人目のせめぎ合いが「上条当麻」を揺るがしているからと言っても、
上条当麻を知りもしない少女がこの弱々しい足どりを止める事など不可能だ。
つまりはそれ位のレベルという事。

上条当麻は答えを出す。ならば先に伝えよう。
止めても無駄だ、自分は進む、と。
一言、御坂美琴に言っておけば良いだろう。


「行かないと、」


上条当麻はそれに様々な意味を込め御坂美琴に言った。
しかし気付いていないがその声は、あまりにも弱く声と呼べないモノだった。
上条当麻ははっきりと伝えた、と思っている。
ならばこれ以上この少女に伝える事など無い。もういいだろう。

上条当麻は御坂美琴の横を通り過ぎようとする。
一歩踏み出した所で異変に気付く。バランスが取れない。
そのまま上条当麻は地面に向かい倒れていく。
だが、御坂美琴の支えにより倒れる事は無かった。


「馬鹿!! アンタその怪我どうしたのよ!?」


ああ、だろうなと上条当麻は思う。まだ何か言っているが聞かなくてもわかる。
この少女は自分を心配しているのだろう。
だがそれは無駄だ、もう一度はっきりと言おう。再び上条当麻は口を開く。


「行か、ないと……」


こんな近くで言っているのだ。流石に聞こえるはず。
上条当麻は続ける。


「あいつら、多分、今も戦ってる。だから、俺も行かないと……」


この言葉は誰のものかなど今更考える必要も無い。
ヒーローが創り出した言葉を、上条当麻は自分の言葉としてはっきりと御坂美琴に伝える。

41 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/20 11:26:07.78 ID:qM+XF20AO


全て伝えた、もう目の前の少女と話す事は無い。
ふと少女の方を見る。時が止まったかのように御坂美琴は黙したままである。
何を考えているのだろう。
だがこの少女が考えている事など今は必要無い。
もっと冷酷に言えば、どうでもいい、些細な事。
そんな事にいつまでも構っている時間は無い。
立つ事すら怪しくなってきたこの体には時間すら惜しい。

もういいだろう、離してもらおう。
そして自分は進み出そう、と体に力を込める。
だが進むことが出来ない。ああ、まだ離してくれないのか。


「……?」


もう自分の意思は伝えた。早く理解してこの腕を離して欲しいのだが。
何故その腕を離さないのか、何故そこに立ち尽くしているのか。
上条当麻はそれを知ろうとはしない。
傷だらけの少年と、それを支える少女が創り出す不可思議な静寂、異様な光景。
その沈黙を御坂美琴は破る。


「何で……言わないのよ」


少女のか細い呟きを、上条当麻は何とか聞き取った。何を言えと言うのだろう。
そんな事を考えていると御坂美琴は上条当麻に歩み寄る。


「助けてほしいって、力を貸してほしいって!
 ううん、そんな具体的な台詞じゃなくて良い。もっと単純に!!
 怖いとか不安だとか、そういう事を一言でも言いなさいよ!!」



御坂美琴は上条当麻に攻撃する

42 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/20 12:42:21.69 ID:qM+XF20AO


上条当麻は驚きを隠せない。。
この少女は今自分が求めているものをはっきりと指摘している。
誰も気付かなかった事。
心の奥底で上条当麻は救いを求めている事、死に恐怖している事、不安を押し隠していた事。
今まで誰も触れなかった事にこの少女は手を伸ばそうとしている。
その手は知的探求心やなんとなくで伸ばした手では無い。
上条当麻に救いを与える暖かく強い、そして残酷な手。

二人目は恐怖する。
もしやこの少女は本当に全て理解した上で、救いの手を差し伸べようとしているのでは。
自分を破壊してしまうかもしれない人物。への恐怖
三人目は期待する。
もしやこの少女は今までの苦痛を認めてくれるのでは。
精神的、肉体的に辛い現状から助け出してくれるのでは。
自分を理解してくれるかもしれない人物への期待。


上条当麻は困惑する。
期待と恐怖が混ざり合う自らの意識。
その困惑はさらなる混乱を招く。
このままではいけない、どうせこの少女はただ心配しているだけだ。
何も御坂美琴は知らない、知っているはずが無い。
ならば最後まで聞こう。そして上条当麻は尋ねる。


「御坂……。なに、言って……」

「知ってるわよ」


何をだ、何をこの少女は知ってるのか。
それを聞いたら本当にもう取り返しはつかない事になる。
もしかしたら、いやまさか。聞くのか、止めるのか。止める必要などない。
この少女は何も知らない、恐怖や不安などありきたりな言葉だ。
考える暇も無く、御坂美琴は上条当麻を攻撃する。


「アンタが記憶喪失だって事ぐらい、私は知ってるわよ!!」


ビクン、と何かが大きく動く。動揺。
ついに現れた待望の邪魔する人物。



御坂美琴は上条当麻を理解する資格を得る

43 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/20 13:40:56.70 ID:qM+XF20AO


なるほど、妙に心に響く言い方をすると思った。通りで重くのしかかる訳だ。
今まで隠していた事がまさかこんな意外な人物に知られるとは。

心は揺らぐ。だが、何かがおかしい。
焦っているのも事実、戸惑っているのも事実なのだが、少し違う。
今まで生きてきた中で最も動揺している、それは確かだ。
それでも上手く言えないが、足りない。

記憶喪失というのは自分を構成する要素としてかなり大きなものだと思っていた。
それなのに、思った程よりはるかに弱い。
これ位で上条当麻は死なない。
何故だ、何故こんなにも平気なのだろうか。
肩すかし、期待外れ、状況にそぐわない単語がぴったり当てはまる。

上条当麻にとって記憶喪失は絶対に隠さなければならないモノでは無かったのか。
それを知られて上条当麻は死ぬほど辛いはずなのでは無かったのか。

三人目には悪いが、どうやらまだ「ヒーロー」は死なない。
何故「ヒーロー」は生き続けるのか、それはごく単純な事だった。



御坂美琴に記憶喪失という事実を知られても、誰が傷付く訳でも無い。



一人目と上条当麻自身と密接な関係にある少女。
その少女に知られない限りは、こんなちっぽけな事気にする必要も無かったのだ。
上条当麻を大きく揺らがすにはもっと、記憶喪失が辛かったなんて事だけを指摘しても足りない。
もっと奥深く、上条当麻を理解しなければ上条当麻は揺るがない。

44 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/20 13:59:28.10 ID:qM+XF20AO


「アンタの中にはそれぐらい大きなものがあるってのは分かる。
 でも、それは全部アンタが一人で抱えなくちゃいけない事なの?
 こんなにボロボロになって、頭の中の記憶までなくして、
 それでもまだ一人で戦い続けなくちゃいけない理由って何なのよ!!」


弱い。そんな綺麗事は上条当麻には届かない。
綺麗な言葉で「ヒーロー」は殺せない。


「私だって、戦える」


違う。そういう事じゃない。
そんな言葉を求めてなんかいない。


「私だって、アンタの力になれる!!」


力なんて要らない。そんなモノ要らない。
今必要なモノはそんな小さな事じゃない。


「アンタ一人が傷つき続ける理由なんてどこにもないのよ!
 だから言いなさい。今からどこへ行くのか、誰と戦おうとしているのか!!
 今日は私が戦う。私が安心させてみせる!!」


空回り、的外れ。そんなくだらない事を「上条当麻」は欲していない。
それは違う。そう伝えなければこの少女には届かない、上条当麻は口を開く。


「み、さか……」


それは違うと伝えようとするが、御坂美琴の空虚な攻撃は続く。

45 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/20 14:30:28.80 ID:qM+XF20AO


「人がどういう気持ちでアンタを待ってるのか、そいつを一度でも味わってみなさい!
 病院のベッドに寝っ転がって、安全地帯で見ている事しかできない者の気持ちを知ってみなさい!!」


待つ気持ちなど上条当麻は知らない。
安全地帯に居た事などほとんど無い、自分はその立場には立てない。


「アンタ、妹達を助けた時もそうだったじゃない!!
 こっちには相談しろって言っておきながら、自分だけ学園都市最強の超能力者に一人で挑んで!!
 何で自分の理論を自分にだけは当てはめないのよ」


そうでもしなければ御坂美琴は命を落としていたかもしれない。
そんな事を上条当麻は許すわけが無い。
自分の理論など知る必要は無い。内から湧き出るモノに理論なんか無い。
攻撃としては虚しい。応援としても不足。中途半端な御坂美琴の言葉。
それでも叫ぶ少女に上条当麻は逆に勇気づけられる。
そろそろこの少女を解放しよう。もう充分だ。


「知っちまったのか、お前」


御坂美琴は異変に気付く。
今のこの上条当麻の雰囲気には、覚えがある。


「でも、違うんだ。
 以前の自分の事なんて思い出せないけど、どんな気持ちで最後の時を迎えたのか、
 もうイメージもできないけど。
 でも、ボロボロになるとか、記憶がなくなるまで戦うとか。
 自分一人が傷つき続ける理由はどこにもないとかさ」




「多分、そういう事を言うために、記憶がなくなるまで体を張ったんじゃないと思うんだよ」



上条当麻の「ヒーロー」性は簡単には死なない

50 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/20 23:26:02.47 ID:qM+XF20AO


はっきり言おう。御坂美琴は失敗した。
甘い、そして浅はかな取り繕った言葉なんかに力は無い。
上条当麻という人間はそう簡単には崩せない。
上条当麻という人間が、そんな言葉で死ぬ訳が無い。

その事実に御坂美琴は気付く。
自分がやった事は全く意味の無い行為だった。
それに気付かず様々な言葉により攻め立てた結果、ビクともしない現実を知る。

この文章では御坂美琴を肯定もしないし否定をしない。
ただ敢えて言うなら、この結果は無理もない。
十三、四の少女に、他人の気持ちを動かせというのは酷だ。
それが様々な感情を内包させながらも芯を持った男であるなら尚更の事。
その少女はきっと止められ無かった事を後悔するだろう。
もし相手に何かあった時は、おそらく一生の間その感情に苛まれる事になる。

確かに御坂美琴の言葉は無責任である。
しかし、彼女はそれを言う事によって責任を自ら負った。
無意識の内だろうが、それはとても覚悟の要る事だ。
この少女の生き方を否定してはいけない。


年相応の行動。確かにそれは不十分だが、結果がどうあれ立派な行為と言ってもいい。
しかし、やはり中途半端なのに変わりない。
もっと貪欲に生きていれば結果は変わっていたかもしれない。

52 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/20 23:52:02.10 ID:qM+XF20AO


上条当麻という男は冷酷では無い。
御坂美琴の言葉をしっかりと受け止め、その上で助けを拒んでいる。
拒む事で少女の意志を無視しているように見えるが、上条当麻はその意志を力へと変換する。

何度心が折れかけても上条当麻は復活する。
しかもそれは、自分独りでは不可能というのが上条当麻の特徴だ。
それ故に、上条当麻が上条当麻である限り、彼は独りでは無い。
誰かが力をくれる。その一つの事実。
上条当麻は不幸などではない。いつでも彼の側には誰かの意志がある。
上条当麻に不幸なんて言葉は似合わない。

少しの沈黙の後、幸福な少年は少女の助けをはっきりと拒む。


「悪い、御坂。お前はもう早く帰れ」


その短い言葉に御坂美琴は衝撃を受ける。
あんなに必死で叫んだのにも関わらずこの扱いは何だ。
上条当麻は線を引いた。
ここから先は御坂美琴の来ていい場所では無い。その資格も無い。
御坂美琴に止める意志は、もう無い。
いつの間にか離れていた腕。消えた温もり。
上条当麻は再び見知らぬ場所に向かってしまう。

止めたくとも止められ無い現実。その資格、力量、意志の強さを持たない自分。
御坂美琴は地面に膝をつき、無力感に襲われる。
遠くなる背中。力強い背中。遠い、絶対に追いつかないと考えてしまう。
やはり自分には無理だったのか。やはり自分は、何も出来ないのか。
御坂美琴は自分自身を否定する。



やはり上条当麻は不幸である。
その背中は実は非常に小さく頼りないものという事にやはり誰も気づかない。
不幸な少年を見ながら、御坂美琴は涙する。

53 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/21 00:29:04.18 ID:RZHq1YyAO


上条当麻は再び歩き始める。
頼りない歩み、今にも倒れそうにも関わらず上条当麻は歩く。
御坂美琴はもう何も言わない。ただ膝をつき涙を流すのみ。
ただ涙が流れているだけでなく、嗚咽を伴い声を漏らす。

思慮の無い自分、不甲斐ない自分、綺麗事を並べただけの自分。
そんな自分では無理も無いのは明白だった。
膝だけでなく手も地につき、苛まれる無力感に押しつぶされていく。
御坂美琴は涙する。感情の赴くままに泣き、叫ぶ。


「どうして……どうしてアンタ一人だけは助けを求めないのよ!?
 何でそんな風にしてられるの!?
 私は全然わかんない……アンタが分からないし分かりたくない……。
 ……ごめん、本当にごめん……。私には無理だったみたい……」


その叫びも嗚咽で聞き取る事は難しい。
しかし、彼女は確かに叫んだ。
誰へ謝罪したのか、自分の無知を晒け出し何になるのか。
彼女は何の意味も無い言葉をただ叫んだ。
その言葉はどうしようも無い、何も変わらないつまらない言葉。
しかし、彼女の素直な思い。無様な彼女の感情。
その言葉こそが上条当麻が本当に欲していたもの。
打算の無い、加工されていないただの感情の塊。それこそが、ただ唯一上条当麻の琴線に触れる。


上条当麻は歩みを止め、後ろを振り返る。顔に浮かんでいるのは再びの涙。
その顔を手をつき下を向いたままの御坂美琴は見る事は出来ない。
上条当麻の顔は、また見えだした恐怖に覆われていた。

54 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/21 00:47:37.96 ID:RZHq1YyAO


上条当麻は目を疑った。
何故目の前の少女は泣いているのか。
おそらく自分が関係しているのだろうが、上条当麻にその理由は分からない。


「御坂……。何で泣いてるんだ……?」


御坂美琴はもう迷わない。汚い言葉、泥臭い言葉でその感情を爆発させる。


「……私は何も出来ないけど、アンタは何でも出来る……。それが悔しい……。
 結局私は何も出来ないただの子供だった!! それが死ぬほど嫌!
 何でアンタはそんなに強いのよ!? 嫌だ、私を置いていかないで欲しい……。
 アンタさえいなければ……私はこんなに弱くならなかった……。
 アンタが強すぎるから……。もう分かった、私は弱い。
 一緒に戦うなんてもう言わない……。だから……戦わないでここに居て!!
 お願い、アンタにはもう傷付いて欲しくない。私のために……ここに居て欲しい……」


御坂美琴は言ってしまい後悔する。何だこれは。子供の我が儘より酷い。
貪欲な感情、何も考えていない自分。
醜い、目も当てられない。結局自分はこんな事を言いたかったのか。
こんな小さな人間だったのか。嫌だ、嫌だ嫌だ。こんな自分、自分では無い。
そうだ、悪いのは自分では無い。アイツのせいだ、全てアイツのせい――。
醜い、汚い、何だこれは。
御坂美琴は、壊れかけていた。

だが、これは間違いなく御坂美琴の本心。心からの感情。素直な思い。
我が儘な自分こそが御坂美琴の正体。
綺麗事なんて要らない。目の前の相手にただ自分をぶつける。
暴力的で理不尽な行動、それが御坂美琴の真実。

そしてそれこそが、上条当麻を動かす。
上条当麻の根底を動かし、揺さぶり、悩ませる。
上条当麻に今まで与えられ無かったものを、御坂美琴はついに与えた。
こんな弱い少女がいったい何故。それはその弱さゆえと言える。


「御坂……。俺、本当は……」


少女の我が儘に呼応するように、上条当麻はついに爆発する。




「……死にたくない……死ぬのが……怖い」

55 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/21 01:17:11.58 ID:RZHq1YyAO


それはあまりにも単純な事だった。
自分を晒け出さない者などに本音など出すわけが無い。
単純かつナンセンスな実態。聞いてて反吐が出るようだ。
だが、こんなただの綺麗事こそが真実なのだ。

上条当麻は今まで様々な困難に立ち向かって来た。困っている誰かの為に。
助けを求めた者も居れば、勝手に首を突っ込んだだけの事もある。
上条当麻が助けてきた誰かに共通する事項。それは、弱々しい姿。
人が危機や困難に遭遇した時、二種類の行動が見られる。
逆境に真っ向から立ち向かうというプラスのタイプ。諦めや、絶望と言ったマイナスのタイプ。

上条当麻はそのマイナスの感情に大きく揺り動かされる。
それこそが「ヒーロー」と言えるだろう。

上条当麻は弱々しい姿に救いの手を差し伸べる。それは何故だ。
「ヒーロー」ゆえ、だけではない。
上条当麻は弱者に対し共感する。自らの内に眠る者が無意識に共感している。


二人目、三人目と区別してきたが、実はこれこそが大きな間違いだった。
「ヒーロー」と、死に恐怖する者は違う存在ではない。
合わせてこそ上条当麻という人間は存在する。

弱さに共感する理由。それは死に恐怖する「ヒーロー」であるからと言える。
誰かの感じる恐怖にシンパシーを感じると共に、何が何でも助けてやるという「ヒーロー」性を発現する。


死を恐怖する「ヒーロー」。これこそが上条当麻である。
人間の弱さに敏感で自らの恐怖を抑え立ち向かう。
そんな強くて弱い人間こそが上条当麻。

だからこそ、御坂美琴の見せた醜い弱さに上条当麻は呼応する。

56 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/21 02:09:58.06 ID:RZHq1YyAO


突然飛び込んできた声に御坂美琴は思わず耳を疑った。
死にたくない、という単純な願望が目の前の相手から聞こえた気がする。
まさか、そんなはずは無い。あの少年に限って、そんな事は絶対に。
恐る恐る、御坂美琴は涙でグシャグシャになった顔を上げる。
すると見えたのは、立ちながら自分と同じように涙する男の姿。
御坂美琴は言葉を失う。有り得ない光景、信じがたい現実。
上条当麻が、恐怖している。


「アンタ……泣いてるの……?」


上条当麻は答える声が出来ない。さっきまでの「ヒーロー」は何処へ行った。
格好つけていた男は何処に消えた。
声にならない塊をまとめ、上条当麻はやっとの思いで答える。


「……ずっと……泣いてた」


「……そっか」


最早かける言葉など要らない。全て分かった。ようやくだ。
自分の体裁を犠牲にしただけはある。絶対にこの感情だけは離したくない。
御坂美琴は上条当麻の言葉を待つ。涙を流し続ける男と女。
甘い雰囲気など一切無い。しかし、そこには何かがある。
待ちに待った上条当麻の言葉が、御坂美琴に届けられる。言葉ではない、叫びだ。


「怖い……死ぬのが怖い……。冷たくなる自分の体なんて想像したくない。
 ……っ……いっ……嫌だ!! 絶対に死にたくない!! 俺だって生きたいんだ!!
 まだ何もしてない……もう何もしたくない……。それでも、それでも……」


御坂美琴は涙で濡れる顔を動かし、ただ頷くのみ。
今なら、今の自分ならば、全て理解出来る。


「それでも俺は……誰かがこれ以上悲しい顔をするのを見たくない……。
 でもその為には……また……あそこに帰らなくちゃ……。
 そうしたら俺は……死ぬ。死ぬ、殺される、消える。嫌だ、でも行かないと。
 ああ、嫌だ……。あ、あ、あああああああああああああああっ!!」


上条当麻は慟哭する。荒々しい哮りなどではない。
上条当麻は叫ぶ。死を恐れ叫ぶ。
御坂美琴は全て受け止める。一つも零さないように放たれた感情を集める。



上条当麻は初めて死への恐怖を告白する

57 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/21 02:28:23.36 ID:RZHq1YyAO


深夜の街に聞こえる二人の子供の嗚咽。
どちらも止めようとはしない溢れ出る感情。
上条当麻は強い人間ではない。御坂美琴は弱い人間ではない。
その事実だけが今の二人の間には存在する。

気づけば手を伸ばせば届く距離。
少し近付いて抱きしめる事も出来る。お互いに温め合う事も出来る。
だが、そんなつまらない事は必要無い。ただ泣いていればいいのだ。誰も止めない、止めるはずも無い。

上条当麻は解放する。
今まで蓄積された苦悩、苦痛、怒り、憎しみ、喜び、悲しみ。
その全てが混ざり合い、涙となって湧き出る。

御坂美琴は吸収する。
吐き出された真実、気持ちの悪い何かも全て受け止める。
寒い、苦しい。どうやら身体はこれだけで限界を迎えている。
それでも絶対に一つも逃してやらない。その感情全てを貪欲に求める。
今自分に出来る事は、幸運な事にこれしかないのだから。

むせび泣く両者、止まらない嗚咽。
何の為に泣き、何を求めるのか。そんな事、今更聞くまでも無い。
互いの為に泣き、自分の為に泣く。ただそれだけを求めていただけだったのだ。


立ち尽くし泣き続ける上条当麻。膝をつき泣き続ける御坂美琴。
両者の涙は少しずつ消えていく。
そうか、もういいのか。言葉を交わさなくてもそれ位は分かる。


二人は涙を止め、次の展開へと動き出す。

58 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/21 02:51:44.90 ID:RZHq1YyAO


呼吸を整える両者。落ち着きを取り戻した後、訪れた沈黙。
その静かさが、この爆発した感情を落ち着かせ、確固たるモノに変える。
しばらくしてから御坂美琴がその沈黙を破る。


「……そろそろ行く?」


さっきまでの場面が嘘のように御坂美琴は上条当麻に尋ねる。
先程の状況とかけ離れた質問。泣き続けた二人は消えてしまったのか。
いや、そうではない。存在するからこそ、言葉なんて必要無い。
二人は淡々と会話し、最終確認を始める。


「止めるか?」

「ううん、見送ってあげるわ」


御坂美琴はもう上条当麻を止めない。付いていく事もしない。
全て理解した上で出した結論。上条当麻を止める事など出来ない。
それは諦めか、絶望か。違う、理解だ。
この先はアイツのもの。私はそれを見ない。この結論は正しいのかどうか。
間違っているかもしれないが、これが答え。
正解なんて要らない。素直な回答だから、これでいい。


「御坂、俺行ってくる。そして絶対に帰って来る」

「次会うときは病院かもね」

「だといいけどな」

「ばーか」


甘い雰囲気ではないが、暖かい。それに甘えず上条当麻は歩き出す。
また涙を流すだろう。死に恐怖するだろう。
それを上条当麻は厭わない。素直に生きるだけだ。
どうせだったら敵を目の前にして腰を抜かすのもいいかもしれない。
そう思うと不思議と楽しくなってきた。相変わらず死ぬのは怖いが。


上条当麻の背中が小さくなる。その背中は遠くから見ても弱々しく大きい背中だった。

御坂美琴はただ見送る。新しく芽生えた感情など語る必要も無い。
グシャグシャの顔で御坂美琴はその背中をただ見守る。
それ位でいい。綺麗な立ち姿なんて要らない。
御坂美琴は汚れた泥臭い姿でただ見送る。

59 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga] 2011/02/21 03:57:56.33 ID:RZHq1YyAO


上条当麻という人間は不思議な存在だ。

先ほどまで泣いていたかと思えば立ち直り、ボロボロの体で歩き出す。
目の前に現れた少女の言葉に全く動かされ無いかと思えば、
少女の本音に心をいとも簡単に動かされる。

「ヒーロー」として立ち上がったかと思えばまた泣き出す。
死にたくないと言いながら体は全く逆の方向に向かっている。
強い人間かと思えば驚く程に弱い面を持つ。

理解してくれないとあしらった相手と手のひらを返したように共感しあう。
守りたいと思っていた相手に実は守られているかもしれない状況。
何もしたくないにも関わらず黙っている事は出来ない。
戦いたいのか逃げたいのかもわからない。
義務感なのか願望なのかもはっきりしない。
誰かを助けたいのかそれとも誰かに助けて欲しいのか。
正体は「ヒーロー」なのか死を恐れる弱者なのか。

答えが明確に出ているのは生きたいのか、死にたいのかという事。
これに関しては考えるまでも無い。

相反する二面性、それが混在する意識と無意識。
矛盾だらけの自分という存在を上条当麻は犠牲にする事を最早厭わない。
間違いだらけの無茶苦茶な人間。実に人間らしく、稚拙だ。

本当の上条当麻は、もしかしたら思った以上に素晴らしい人物かもしれない。
困った人が居ればただ助ける。弱さなど絶対に見せない。
その場合はきっと素晴らしい主人公として、今後も生きて行くだろう。
そんな格好いい上条当麻を見続けたいというのも本音ではある。


しかし、この文章ではその上条当麻を否定する。
あくまでも人間らしく矛盾した少年を動かしたい。
人間らしく死に対し恐怖し、ボロボロの体に涙を流して立ち尽くす主人公。
そんな歪んだ意味のわからない文章の上で動く上条当麻。


たまにはそんな上条当麻が見てみたかった。

69 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/22 02:04:40.69 ID:QRw5HCgAO


神の右席、後方のアックアは何の為に戦うのか。
彼の言葉を借りるなら、騒乱の元凶を断ち切る為だ。
騒乱の元凶とは今回の場合上条当麻の事を指す。
もっと言ってしまえば上条当麻の右腕が最終的な対象だ。
一人の少年を犠牲に、世界の辛うじて保たれている平静を守ろうとする。
アックアはただその目的の邪魔になるものを排除するだけ。
彼は彼自身の信念に従順である。
その聖なる恐るべき力を用い、世界を救い、障害を破壊する。


アックアはただ己の信念に純粋に従う。


聖人、神裂火織は何の為に戦うのか。

救われない者をただ救いたい。その純粋な思いを持ち彼女は戦う。
その為に自分の持つ強大な力を使う。動きにくい立場に悩みながらも戦う。
しかし、彼女は自分の持つ力に苦悩する。

どうやら力を持ちすぎると人間は少し歪んでしまうらしい。
その歪みを矯正出来るという事は、
既に一人の少年が証明しているから問題は無いが。

現に神裂火織もその歪みを矯正する。
ずっと信じてくれていた仲間を頼り、彼女はあるべき仲間の待つ場所へ帰る。
そうして彼女は共に戦うという事を覚えた。


神裂火織は今までの自分自身を捨てる。



天草式十字凄教の面々は何の為に戦うのか。

彼らは自らの心に密接に結び付く存在の為に戦う。
その存在の信ずる道を彼らも歩く。ただ一人の女性が歩く道。

遥か彼方に小さく見える背中。
その背中を見失わない事こそが彼らの生き方。
ただ、その背中が反対を向く事が無い。
はっきりとした現実だが、それが悲しい。ある種の諦めに近い。

だがその女性がもし、自分達に助けを求めて来たらどうするか。
彼らは最大限のもてなしで彼女を迎え、涙を流して受け入れるだろう。


天草式十字凄教は神裂火織と共存する。




もう一度聞きたい。彼らは何の為に戦うのか。

70 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/22 18:29:14.43 ID:QRw5HCgAO


相変わらず上条当麻はボロボロの体を引きずる。
さっきと違うのは精神と身体が分離していないという事くらいか。
誰にも見えない大きな違い。上条当麻はひたすら歩く。

目指すは戦場、本当は戻りたく無いのだが、戻るべき、そして戻りたい戦場。
上条当麻は選択出来る。上条当麻にはその戦場に向かう権利がある。
拒絶、義務、願望、権利。ただ一つの行動に様々な要素が含まれている。
その全てを内包し上条当麻は進む。


不思議な事に上条当麻は正確にその地点に辿り着く。
もしや彼には隠された能力があるのかもしれない。
戦いを感知する能力、恐らく持っていても得しない能力。
それは「ヒーロー」の持つ勇気や弱者の持つ恐怖が作用しているのかもしれない。
それらが上条当麻に数奇な遭遇を与えているの、というのも考えられる。

思えば不思議な事だらけだ。
上条当麻はただ学園都市に来ただけなのに、
気付いたら世界の行く末に作用してしまう人物になっていた。
偶然にも少女が学園都市で追われ、その少女が自分の部屋に落下する。
偶然にも学園都市第三位の超能力者に出会い、学園都市第一位と戦闘する。
イタリア旅行を当てて事件に遭遇した事もあった、偶然にも。

全ては偶然、奇妙な数ヶ月。
その全てを偶然という言葉に収めるのは、あまりにも乱暴だ。
もっと言えば、この学園都市に偶然という言葉はあるのだろうか。
だが、今はそんな些細な事はどうでもいい。
実際、上条当麻という男が関わらなければ、物語が進まないというのは事実だ。
彼の主人公という性質が奇妙な展開を作る、ただそれだけの事。


この事については触れない。
そんなつまらない事は、上条当麻の「今」には何の関係も無い。

ただ、上条当麻が歩いている、という一つの事実がそこにはあるだけだ。

71 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/22 19:46:19.09 ID:QRw5HCgAO


その頃、化物同士の喰らい合いは化物対人間の構図に変わっていた。

神裂火織は天草式十字凄教と共闘する。
一方的に頼るという訳では無い。
お互いに依存し合う、同じ位置での共闘。
天草式にとっては夢にまで見た瞬間の訪れ、神裂火織にとっては歪みの矯正。
彼らは力を合わせ化物に立ち向かう。

『聖人崩し』という、聖人をねじ伏せる為の絶対唯一の一撃。
先程は外したが、今度は違う。
天草式はあるべき姿に戻った。その事実があれば、化物は倒せる。
その一撃を天草式は必死に守る。ただ目の前の化物を撃す為に。

ここの天草式という言葉にはもちろん、神裂火織も含まれている。
それこそが彼らを奮い立たせ、不可能を可能に変える。
何も迷う事は無い。吼え、立ち上がり、対峙する。
誰もが自分に素直になり、力を振り絞る。

果たしてそれは誰の為なのだろうか。
やっとこちらを向いてくれた存在の為。
仲間と認めた者を守りたい為。
そして、その辿り着いた事実を揺るぎ無いモノにする為。
つまりは、自分自身の為に彼らは戦う。
自分自身の為に戦う事こそが、大切な存在を守る事になる。
これほど幸福な事は無いだろう。歓喜するのも無理はない。



上条当麻は不幸である。

やはり彼ほどのヒーローは居ないのかもしれない。
礼讃するつもりは無かった。
しかし、進めば進む程、彼は高い位置に登ってしまう。
実に身勝手で不条理な行動だ。手に負えない。

激しく何かがぶつかり合う音が聞こえる。
もう少しで戻ってしまうが良いのか、最早問わない。
上条当麻は、再び化物が血を狙う戦場に辿り着いた。



もう一度言う。上条当麻は不幸である。

72 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/22 20:37:04.96 ID:QRw5HCgAO


声が、音が聞こえる。
その音が戦いの匂いを上条当麻に運ぶ。
自らの傷など関係無い。上条当麻は戦いの中心に向かう。
小さく見えて来た傷だらけ数十名。そしてもう二人。
見るとアックアの攻撃を全力で防いでいる人物が居る。
見知った人物、神裂火織。
そうか、やっぱり助けに来てくれたのか。
その事実さえも上条当麻は力に変換する。
相変わらずの激しい攻撃。生きている自分は奇跡なのだろうか。
今まで考えないようにしていたが、血が流れ出るボロボロの体。
この体でもう一度攻撃を受けたら――。


怖い、嫌だ、戦いたくない。死ぬのは、嫌だ。


それでも恐怖と信念を胸に、上条当麻は向かう。
自分自身を守る為に戦っているはずの者達が奮闘する中心へ。

アックアが上空高く跳び上がるのが見えた。
彼は敵を認めた。それ故に、敬意を持って飛翔する。
一撃で全てを決めるつもりか。
その一撃は恐らく周りを巻き込み、最悪の結果を与えるだろう。
彼の最大の攻撃が神裂火織に向かう。

それだけはさせない。
神裂火織は構える。絶対に守る。
ただそれだけを考え彼女は覚悟を決めた。
諦めを捨て、盾となり立ち向かう。


気付けば上条当麻は走っていた。
血だらけの体を酷使してただ走っていた。
何故走るのか。
そうしないと一生後悔するから、などとくだらない事は考えない。
ただ、本能が訴えたから。無意識の内に体が動いたから。
死に恐怖する自分でさえも、そうしなければと思い協力する。
「ヒーロー」と「弱者」が力を合わせ、上条当麻を動かす。
限界の精神と身体を一にし、ただ走り、そして手を伸ばす。
ただそこにあるものを守る為に、右腕を伸ばすのみ。


アックアは確信する。神裂火織は覚悟する。
見えかけた勝者と敗者の確定。


上条当麻の右腕は、容赦なくその現実をぶち壊す。

73 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/22 22:06:33.78 ID:QRw5HCgAO


神裂火織は目を疑った。無傷の自分など有り得ない。
あんな強力な魔術の攻撃を消し去るなど――。
そこまで考えて目の前の人物を見る。男が二人。
一人はアックアで間違いない。もう一人は、まさか。


「な……ッ!!」

「死にた、……」


驚愕するアックアに、血まみれの上条当麻は呟いた。
それは途中で途切れ、最後までは伝わらない。
アックアは、その忌まわしき幻想殺しを持つ少年を振り解く。
豪腕をもって投げ出された上条当麻。
その場所は、ちょうどアックアと神裂火織の中間。


「上条当麻……!? その体でここまで……」


上条当麻は答えない。
ただ再び立ち上がり、アックアに対峙する。
血が滴る体、痛みも限界であるにも関わらず上条当麻は立ちはだかる。


「また戻ってきたか。覚悟は良いのだろうな」

「…………」


上条当麻は答えない。黙して立つ。
神裂火織という人物を守る大木の様に、ただ立てるのみ。
立つ事すらままならない体。
そして目の前に居る敵は、確実に自分を死に追いやる。

抑えていたはずの震えが、止まらない。
いや、抑えてなどいない。
「弱者」は自身の持つ僅かな勇気で震えを止めていた。
「弱者」といえど、「上条当麻」という生き方は否定出来なかった。
しかし、再び死が現実味を帯びて来た。
その事実が上条当麻を襲う。
夥しい血液、冷たくなる体――嫌だ。


「上条当麻!! 早く逃げて下さい!」


神裂火織は精一杯叫ぶが上条当麻は動かない。
おかしい、何かが変だ。変化は目に見えないのだが確実に違う。
周りに居る人間全員がそれを感じる。
簡単に言えば、いつもの「上条当麻」ではない。


「面倒だ、先にその右腕を消すとしよう」

アックアはその足を踏み込み大きく前進する。狙うは上条当麻の右腕。
それでも上条当麻は逃げない、動かない。
何故動かないのか、――いや違う。

後五十センチという所でアックアはある事実に気付く。
それは彼が彼であるが故に見過ごせない事実。
その事実がアックアの攻撃を止める。
アックアは上条当麻に尋ねる。


「……貴様、泣いているのか」


上条当麻は動かないのではない。動けなかっただけだ。
その理由は、死への恐怖。
死に恐怖するのにも関わらず、そこから来る震え、
そして限界の体が動く事を拒否する。

そして再び零れ落ちる涙。上条当麻は泣いていた。


アックアは涙を無視する事は出来ない。

74 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/22 22:36:12.47 ID:QRw5HCgAO


「死する事に恐怖するか、幻想殺し」

「……ああ、……死ぬのが……怖い」


アックアは上条当麻に攻撃した。
しかしまたもや、何も起きていない。
その不可思議な事実に一瞬時が止まる。
僅かな沈黙を神裂火織が破る。


「いったい、どうしたというのですか……上条当麻」

「神裂……俺さ……」


そこまで言って上条当麻は神裂火織の方を向く。
神裂火織は気付く。今まで見た事ない上条当麻の顔に。
弱々しく、涙で濡れる顔。思わず疑ってしまう。
誰だ、この人物は。その疑問に上条当麻は言葉をもって答える。


「俺……死ぬのがすっげえ怖い……。
 足がもう全然動かないんだ……。
 今まで頑張って来たけど……。
 右腕も俺も……限界が来たのかもしれないな……」


神裂火織の今の心境を表すなら、驚愕という言葉が一番相応しい。
今まで見てきた「上条当麻」という男はなんだったのか。
「あの子」を救い、仲間を助け、
世界の危機にまで立ち向かっていた上条当麻という少年。
もしや、いやまさか。
仮定と否定を繰り返すがやはり答えは一つしか無い。


この少年は、あまりにも弱い。


臆面も無く上条当麻は自らの弱さを告白する。
今日という日だけでどれ程の涙を流しただろうか。枯れても不思議ではない。
しかし、その一滴一滴が全て重い。
意味の無い涙など存在しない。これは綺麗事では無い。

その事実を証明する者が今、この場に一人だけ居る。
他でもない目の前に居る強大な敵、アックアだ。


アックアは涙の理由に優劣をつけない。

76 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/22 23:56:56.93 ID:QRw5HCgAO


あれ程荒んでいた戦場の雰囲気が変わる。
武器の交わる音も、最早聞こえない。
ただ聞こえるのは少年の嗚咽のみ。
あれだけ泣いて立ち上がったのだ。また嗚咽する理由は解せないかもしれない。

しかし、上条当麻は死への恐怖を克服した訳ではない。
死ぬのが怖いという事、自らの「弱者」としての側面を認めたに過ぎない。
そして再び現実に向き合った時、再び恐怖で涙するのも自然な事だ。
むしろ弱さを認めた分、素直に涙を流してしまう。

神裂火織と天草式の面々は、この現実にただ言葉を失う。
今まで見てきた「上条当麻」という人物が見せた初めての姿。
十五、六の少年相応の死を恐れる姿。
この状況に合う言葉、それは裏切り。
似合わない言葉かもしれないが、彼らが今まで抱いていた思い。
「上条当麻」という男は強いヒーローだという事。
彼らがそれを今まで信じて疑わなかった。それは彼らだけではない。

上条当麻はこの幻想だけは殺せない。
故に彼はただ一人で傷つくだけだった。


神裂火織は後悔する。
今まで頼って来た少年の弱さに気付けなかった事。
こんなにも身近に救われざる者が存在したという事実。
神裂火織は激しく後悔する。
自分達はなんと愚かな事をしてきたのか。
自らの信念に従って生きて来たなど良く言えたものだ。


神裂火織は上条当麻に恩返しなどしなくて良かった。
そんなくだらない事を上条当麻は求めてなんかいない。
本当に欲しかったモノはもっと単純なモノ。それは、理解。

記憶を失い命を賭して戦って来た少年。
その少年がどれ程の思いで立ち上がり、
どれ程の苦痛を蓄積していたかを理解しようとするだけで良かった。

助けられたから感謝していますなど本当につまらない事だ。
神裂火織はただ、上条当麻をもっと見てあげるべきだった。
それが無かった結果、上条当麻という男はここで弱さを自分で自覚する。
その為に死ぬ思いをして、ようやく彼はここにたどり着いた。
上条当麻の体は、ボロボロだ。



神裂火織は初めて理解し後悔する。

77 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga] 2011/02/23 03:31:46.97 ID:ZJCOGa9AO


神裂火織は全てを理解した。遅かったかもしれないが、それでもいい。

神裂火織が気付く事が出来なかったのも無理はない。
彼女にとって戦いとは常にそこにあるもの。非日常こそが彼女の日常である。
普通の人間とは違う力を持つ存在、聖人。
その今までの生き方から彼女も麻痺していた一人である。

誰かの為に戦う上条当麻は、常に強い人間であり続けると錯覚していた。
その錯覚が、目の前に居た救われぬ者を見過ごす事に繋がった。
神裂火織は悪くはない。少し不器用に生きていただけだ。
それでも神裂火織は自分の過ちを悔いる。


「あなたは……そうやって辛い思いをしていたのですね」

「……俺が悪いんだよ。弱くて小さい俺が悪いんだ。
 だから中途半端に善人ぶって、周りのみんなに迷惑かけちまう……。
 ……死ぬのが怖いって泣き出すようなガキ……それが俺だったんだ」

「……! あなたは弱くなど……」


その言葉を上条当麻は遮り、天草式を含めた仲間達に向かい言葉を紡ぐ。


「神裂、それに天草式のみんな……ごめんな。
 俺、自分が思ってるより強くなかった……。弱っちい人間だったよ、ごめん」


この状況で上条当麻は自らの弱さを悔いる。考えも出来ない事だ。
さらに、自分のせいで傷ついた者、期待していた者への謝罪。

忘れていた、自分達はこの少年を守る為に戦っていたはずだ。
守るべき人間の奥を理解しようとしただろうか。
自分達はいったい、何の為に戦っていたのか。
自分が死ぬかもしれない状況で、他人を労り、己の弱さを謝罪する。
こんなに強い人間の為に戦える事を何故誰も喜ばなかった。


戦意が薄れる。武器を持つ手に力が入らない。
強大な敵を目の前にしての戦意低下。
危険過ぎるこの精神を、誰も止める事は出来ない。
ついには膝をつく者まで現れる。疲労か、限界か、それとも後悔か。


立てる者はアックア、上条当麻、神裂火織、他に天草式数名。
不思議な事に戦おうとする者は居なくなった。
いや、一人だけ今も戦っている者が居る。
自らの弱さに立ち向かい、その弱い自分を悔い、恐怖を克服しようとする少年。



上条当麻ただ一人がその戦場で戦っていた。

82 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/23 15:32:44.99 ID:ZJCOGa9AO


異様な戦場、いやもう戦場とは呼べない空間。
その中心に立つ二人の男と一人の女。
その内の一人、アックアは静かにその言葉を受け止めた。
己が信念に基づき、この少年の「今」をアックアは否定しない。
弱者と自ら認めた者が流す涙を、彼は絶対に無視しない。
そしてアックアは、上条当麻に問いかける。


「それで、貴様はそこで立ち尽くして、生を諦める気かね?」


厳しい言葉。その生死を如何様にも出来るのは、彼自身だというのに。
アックアは上条当麻の言葉を待つ。


「……死にたくはない」

「ならば、戦う事を諦めるのか」

「…………」

「諦められないから、貴様は逃げる事なく、
ただ立ち尽くし涙を流しているのではないのか」

「……その通りだ」


上条当麻は答える。
血、涙、傷、ボロボロの体でも倒れる事なく答える。


「つまらない葛藤など、している場合ではない」

「…………」

「貴様の戦っている『相手』は強大だ。
 そして貴様が動かない限り、この場の結末は明白である。
 ならば、貴様が今すべき事は――」

「誰かの為に、立ち向かう事だ」


アックアは誘導した。
敵である上条の本心を、求める方向に連れて行く。
何の為に彼はそんな事をするのか。


「貴様は何を選択する」

「……今は、お前に立ち向かい、倒す。 そして、俺の周りに存在する人を守る。
 ……自分が死ぬかどうかなんて……守れない事に比べたらどうでもいい」

「現状を考慮出来てない甘い考え。そして、
 綺麗事を並べただけの青臭い言葉で人は救えない。だが……」


厳しいが暖かい言葉。
アックアはその続きを紡ぐ。


「―――良い決意である」


化物が笑う。
彼は最早、敵ではない。戦う事は無い。
ただこの少年を導くだけだ。

83 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/23 15:59:27.30 ID:ZJCOGa9AO


上条当麻だけでなく、その場に居た全員が目を疑った。
アックアが、笑っている。
勝利の確信から生まれる、余裕の笑みのような下衆なモノではない。
相手を思いやり、労り、そこから生まれる暖かい笑みだ。

有り得ない。何がどうしてこうなったというのか。
さっきまで対峙していた敵は何処に行ってしまったのか。
だが、目の前にあるものが全てだ。
アックアと戦う必要はもう無い。
いったい何故か。それはとても簡単な事。
アックアは上条当麻に同情したというだけの話。
心からの感情、故に彼はもう、上条当麻を死に追いやらない。

それに連れられ、神裂火織や天草式の面々も改めて上条当麻を思う。
アックアと一の感情、同情と言っていいだろう。
そこに存在する者全員が、上条当麻のこれまでを思い、
上条当麻のこれからを憂う。
それはただ優しさから来る単純な思い。


同情とは否定的に取られがちだが、それは勘違いというモノだ。
確かに、中途半端な同情は相手の尊厳を軽視していると言える。
しかし、心から相手を思い、立場を考え優しさを向ける。
そうすれば、相手を助ける事が出来るモノと変わる。

同情される側も、プライドが邪魔をしては、
ただの不毛なやり取りにしかならない。
自分の弱さ、醜さを認めた上でその優しさを享受する。
そうしなければ、いつまで経ってもお互いに理解出来ないだろう。


上条当麻は今、優しさを全身に受ける。
暖かい理解に包まれる今この時。
それこそが上条当麻の求めていたモノ。



上条当麻は不幸だった。
しかし、もうそんな事は言わせない。
上条当麻は不幸ではなくなった。

84 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/23 16:42:24.27 ID:ZJCOGa9AO


上条当麻はただ、アックアの言葉を聞き、
その場に存在する皆から優しさを受けた。
もう悩む必要は無い。
恐怖し、涙を流していた自分は少し置いておこう。
きっと、理解してくれるはずだ。
「上条当麻」は確かにその上条当麻の思いを受け止め、共に立ち上がる。
顔つきが変わったのを確認して、アックアは再び問い掛ける。


「覚悟はできたか」

「ああ、お前に倒される事はもう無い。
 ただ誰かの為に戦うだけだ」

「まだわからないか、少年」


暖かい雰囲気を出すアックア。
まだ理解していない上条当麻。こんな時も少し鈍感なのだろうか。
代わりに神裂火織が答える。


「上条当麻。もう、この場では戦う事はありませんよ」

「……?」


やはり鈍感なのだろう。
暖かい笑みは苦笑に変わる。
理解出来ていないのは上条当麻ただ一人。
その疑問に答えるべく、アックアは真剣な顔で、
武器を体の横に持ち、神裂火織に問う。


「私と同じように力を持つ聖人よ、
 ここで共に誓おう。今こそ名乗る時である」


アックアは「彼自身」を捨てた。そして本来の姿に戻る。
神裂火織はそのアックアの申し出に答える。
同じように自らの持つ武器を両手で持ち、アックアと意志を一にする。


「――『その涙の理由を変える者』(Flere210)」

「――『救われぬ者に救いの手を』(Salvere000)」


魔法名を名乗る事。それは即ち覚悟を示す事。
この場合の覚悟は――上条当麻と共に戦うという意志。


「上条当麻。その少年の持つ恐怖からくる涙を、
 私は決意と歓喜の涙に変えよう」

「今まで傷つくのみだった上条当麻という少年。
 その救われぬ者に私は救いの手を伸ばそう」


上条当麻という男一人に対し、聖人が敬意を持って誓う。
これから起こる激しい騒乱。
その元凶をアックアは排除し、悩める弱者を神裂火織は救う。
立ち尽くしている場合ではない。ただひたすらに進むのみだ。



上条当麻と共に、これから起こる激動の世界へ彼らは飛び込む。

85 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga] 2011/02/23 17:37:41.44 ID:ZJCOGa9AO


気付いた時には再びいつものベッドに寝ていた。
目を開けるとそこに居たのは五和だった。


「わっわっ、気づかれましたか?」

「……ああ。何だか、夢を見てたみたいだ」


その表情を見て上条当麻の思う所を探る。
少しおどけて五和は上条当麻に話しかける。


「ずいぶん気持ち良さそうに寝てましたね。
 ……どんな夢だったんですか?」

「すげえカッコ悪い夢。傷だらけで歩いた後、
 敵の前で泣き出しちゃう変な夢さ」

「……そうですか。奇遇ですね、
 私も同じ夢を見ていたんですよ」


五和の優しさが上条当麻を癒やす。
彼女はきっとカッコ悪いなんて思っていない。
それどころか世界で――というのもここで語る事ではない。
照れくさそうに笑う二人。そこで、


「………………………………………………………………とうまがもういつも通りなんだよ」


その後はいつも通りの流れが続く。

そんな病室に入って来た新たな女性が、二人。
一人は神裂火織。もう一人は、御坂美琴。


「やっぱり次会うのは病室だったみたいね」

「ああ、悲しい事にその通りだったよ」

「……アンタ、勝ったの?」

「……いや、怖くて泣いてたら敵に同情された」

「そっか……お疲れ様」

そのふざけた言い方に御坂美琴は全てを感じ取る。

何やら視線を感じ取り、上条当麻はもう一人の女性、
神裂火織の方に顔を向ける。


「私は今まで……本当に」

「神裂、もういいんだ。俺もお前も生きてる。
 これだけで充分だろ」

「……やはりあなたは強い人間です」


二人の女性と暖かい雰囲気を作る上条当麻。
それがインデックスと五和は面白く無いようで、じっと上条当麻を見つめる。


上条当麻は幸福である。
またこの暖かい空間を守り抜く事が出来た。
自らの弱さを認め、その意志に賛同する者は数多くいる。
死に恐怖する自分が弱いという事実は否定しない。
むしろその恐怖と共に戦おう。
これからも続く世界を巻き込む戦いの中で。



上条当麻は死への恐怖を排除しない。


上条当麻は親愛なる恐怖と共に生きていく。

86 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 2011/02/23 17:48:05.30 ID:ZJCOGa9AO

以上です。
読んで頂いた方はありがとうございます。

少ないレス数で申し訳ありません……
ただどうしてもこの文章は一つのスレで書きたかったのです。
すぐに依頼を出してきます。

期待とレスしてくれた方、色々考えて頂いた方皆さんに感謝します。
読みにくい、意味が分からないという方はごめんなさい……

駄文失礼致しました。

87 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2011/02/23 18:06:27.37 ID:OVJ/8tDAO

乙乙。
おもしろかったかです
こういう葛藤したりする人間味のある?上条さん好きです

心理描写が上手くて羨ましい…

90 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2011/02/23 19:30:27.18 ID:xKJ9t5nAO

あきらめが人を[ピーーー]
あきらめを拒絶した時、人間は人道を踏破する権利人となるのだ

>>1


元スレ:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1297962491/
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